1973年アメリカ・ツアーの中でも聞きやすさと演奏の充実ぶりからマニアには人気のあるオーディエンス録音の一つであったプロヴィデンス。この時期のZEPはツアーのゴール地点が見え始めていたにもかかわらず踏んだり蹴ったりでした。シアトルで会心の名演を聞かせてくれたかと思えば、次の「VANCOUVER 1973」はロバートの体調不良によって強制終了。一日のオフを挟んで挽回と思われた「BOSTON 1973」になると今度は騒がしい観客の態度が問題となってバンドの意図とは別の原因でまたしても強制終了。こうした体たらくが続いてしまったところでロバートを中心として奮起した結果が見事に現れたのがプロヴィデンスでした。その熱演ぶりは聞きやすいオーディエンス録音が存在してくれたおかげでさらにマニアに知れ渡るところとなったように思えます。モノラル録音ながらジミーのギターを中心とした音像はなかなかに近く、懐かしの旧タラ盤「L.Z. RIDER」で初お目見えしてからというもの73年アメリカ・ツアー好きには良音源の一つに数えられたほど。とはいえ出現した当初から欠点を抱えていたのも事実でしょう。まず全体的に音のエッジがシュワシュワした質感。これは現在のパソコン・ソフトによるイコライジングとはまた違った独特の感触として登場時から気になったもの。それに加えて「The Song Remains The Same」序盤の欠損を皮切りとしていくつか生じてしまうカット。また「Dazed And Confused」25分手前や「Stairway To Heaven」7分半ばなどに入るノイズなど、せっかくの名演ながら聞きこむ際のハードルを上げてしまっていたように思えてなりません。別音源が存在しない以上カット個所に関しては補填のしようがなく、例えばEV盤「THERE'S SO MUCH MORE SOUND TO HEAR」などは大胆にも他公演のオーディエンス録音から補填するという荒技を使っていましたし、さらに聞いていて音質自体もジェネ落ち感と入力過多を覚える状態でした。その点2015年にリリースされたCD「PROVIDENCE 1973」は当時ベストとされたリマスターのバージョンを元にしており、それが好評を呼んでSold Out。とはいえdadgadによる元のファイルの公開から十年の歳月が経過し、今となってはイコライズ感が否めない。何よりここまで挙げたアイテムはどれも「ジェネ不明」な状態で出回っていたバージョンを元にしていたのでした。ところが今回の新たなバージョンは何と「First Generation Analog」、つまりロージェネレーションなコピーが初めてネット上に現れました。そんな貴重なバージョンを公開してくれたのはおなじみKrw_co。となればクオリティは約束されたようなものですが、そんなマニアの期待を裏切らないアッパー版だったのです。残念ながら先に挙げたようなカット、さらに独特の質感といった問題は変わらないのですが、しかし音質自体は劇的に変化。これまでリリースされてきたアイテムを軽く一蹴してしまうほどナチュラルでスッキリとした音質。今回のバージョンと2015年盤「PROVIDENCE 1973」との比較でも音質の差は歴然。なるほどロージェネならではのアッパー感を解りやすく伝えてくれる。ただし本音源は最初に触れた「L.Z. RIDER」の時代からピッチが高いという問題を抱えており、その点も2015年版はちゃんとアジャストしていたのですが、今回のロージェネ・バージョンもやはりピッチが高かったことから抜かりなくアジャスト。そして最初の大きなカットポイントである「The Song Remains The Same」辺りから高音がきつくなるきらいがありましたので、これも緩和。そして何と言っても演奏内容の良さ。オープニングの「Rock And Roll」からしてロバートの気合十分な歌いっぷり。それは明らかに直近のショーにあった煮え切らなさを払拭せんばかり。ただしジミーのギターソロの終わりでは演奏がブレイクせずに突き進んでしまいますが、これも気合十分なロバートにバンドが応えようとして勢い余ってしまったかのようであり、むしろ微笑ましく映るほど。しかし何と言っても凄いのが「Dazed And Confused」。イントロこそジョンジーが珍しく音を外してずっこけそうになってしまいますが、そんな凡ミスがまるで気にならないほどの白熱ぶり。それはボンゾが煽ったのに応えるべく序盤から弾き倒すジミーがとにかく凄まじい。テンポの下がる「San Francisco」セクションに移っても彼はいつもとは違うフレーズを弾き続けていて、指の好調さがどうにも止まらないといったところか。演奏のテーマに戻る際にもやたらと弾んだリズムでカッティングしており、文字通り乗りに乗ったジミーの冴えた「Dazed And~」だったのです。彼の好調ぶりはなおも続き、なおかつロバートもここ数日では考えられないような力強いシャウトをみせてくれたことから「Stairway To Heaven」に至っては後のサントラ(=「永遠の詩」)に入れてもおかしくないような名演にまで昇格。ジミーがここでも見事に構築されたソロを弾きまくっており、復調したロバートと共に昇り詰めるような素晴らしい演奏となっていたのでした。それもこれも彼のギターの音が近い音像によってリアルに伝わってくる。何より2015年盤「PROVIDENCE 1973」のSold Out後、73年アメリカ・ツアー終盤の名演を聞きたくて再リリースを求める声が寄せられていたのも事実。そのタイミングで登場した新たなバージョンは正に「アッパー版」という言葉がぴったりと当てはまる。これまでにないナチュラル&クリアーさと共にキレッキレなジミーを中心とした73年ZEPが生み出した名演プロヴィデンスをじっくりとお楽しみください!(リマスター・メモ)冒頭からMoby Dickまではピッチが速いので修正。The Song Remains The Same以降は高音がキツイのでなるべく元の雰囲気のままキツイ部分を軽減しました。全体の音圧を上げました。Providence Civic Center, Providence, RI, USA 21st July 1973 PERFECT SOUND(UPGRADE!!) Disc 1 (61:08) 1. Intro 2. Rock And Roll 3. Celebration Day 4. Black Dog 5. Over The Hills And Far Away 6. Misty Mountain Hop 7. Since I've Been Loving You 8. No Quarter 9. The Song Remains The Same 10. The Rain Song Disc 2 (73:20) 1. MC 2. Dazed And Confused 3. Stairway To Heaven 4. Moby Dick 5. Heartbreaker 6. Whole Lotta Love 7. The Ocean