ジャクソン・ブラウン1980年代のライブ音源は当時の一般的な人気を反映して82年までのアイテム群でリリースが止まってしまったのように思えてなりません。特に彼のキャリアの中でも政治色を強めた「LIVES IN THE BALANCE」から「WORLD IN MOTION」にかけてとなるといよいよアイテムが少ない。そうした状況に一石を投じてくれるかのごとくレアなサウンドボード録音がネット上に現れました。今回リリースされる貴重な音源は1988年のアッパーダービー公演。時期的には「LIVES IN~」で形になった路線変更のインパクトも一段落し、政治色の強いアルバムという頂点を極めることになった「WORLD IN~」が制作中というタイミング。よって絵に描いたような80年代後半ブラウンの過度期を捉えた貴重サウンドボードでもあるのですが、まずは何と言っても音質が素晴らしい。間違いなく関係者流出のPAアウト・サウンドボードですので臨場感の希薄さを差し置いてもクリアーな音質、さらにはステレオ感すら味わえる録音状態はマニアでなくとも十分に楽しめるレベル。今まで極端にアイテムのなかった時代のブラウンを捉えたライブ音源というだけでも非常に価値の高いものですが、これだけ高音質なサウンドボードが眠っていたという事実には驚きを禁じえません。この時期のライブの面白いところは、先に触れた二枚のアルバムの狭間というタイミングですので、当時の最新アルバムであった「LIVES IN~」収録曲がセットリストの前半を占めるという構成。なおかつライブ全体を通してシンセサイザーが幅を利かせたバンドサウンドという80年代後半ジャクソンらしさがPAアウトで真空パックされた貴重音源だとも言える。こうしたサウンドの変化と政治色を強めた結果として、当時の彼のレコード・セールスは凋落の一途を辿ってしまう訳ですが、あれから時間が経過し、この時期も彼の力強い歌声が健在であったことを思い知らされるのも事実。それと同時に、ライブ中盤でジャクソンの弾き語りによる「For A Dancer」や「Late For The Sky」といった1970年代クラシックが続くとそれまでの80年代っぽさが一掃され、従来の彼らしさが蘇る…言うなれば、いい意味での「落差」が捉えられているのもPAアウトの生々しさだからこそ。そうした状況はジャクソン本人も十分に自覚していた事だと思われ、この日の彼は同じように往年のナンバー「Linda Paloma」を始めようとして止めてしまい、そこから「For A Dancer」を弾き始める様からして過去の曲は少なく、できれば80年代当時の楽曲を推したかった様子が伺えます。だからこそ制作中だった次作「WORLD IN MOTION」から既に二曲もライブ前半にて披露していたのでしょう。これもまた本音源の貴重なポイント。しかし時間が経過したことで当時の違和感も軽減され、むしろ優れた80年代ロックサウンドを生み出していた当時のジャクソンならではの魅力が新鮮にすら映る驚きの初登場サウンドボード。ちなみに今回の音源はフィナーレ「For America」の終盤で録音が止まってしまう点が惜しい。さらに弾き語り「Cocaine」以降でカセットの劣化と思しき音のコモリが生じていましたが、音質の変化に際しては違和感をイコライズにて緩和させておりせっかくの貴重なサウンドボード、抜かりはありません! Tower Theatre, Upper Darby, PA, USA 30th September 1988 STEREO SBD Disc 1 (50:56) 1. Intro 2. Boulevard 3. Tender Is The Night 4. In The Shape Of A Heart 5. Enough Of The Night 6. For Everyman 7. Lives In The Balance 8. Anything Can Happen 9. MC 10. The Word Justice 11. Soldier Of Plenty 12. Black And White Disc 2 (42:46) 1. MC 2. Cocaine 3. Linda Paloma 4. For A Dancer 5. I Thought I Was A Child 6. Late For The Sky 7. Lawyers In Love 8. Till I Go Down 9. When The Stone Begins to Turn 10. MC 11. 1 For America STEREO SOUNDBOARD RECORDING