今となってはすっかり見過ごされてしまった感が否めませんが、ボブ・ディラン1991年夏のヨーロッパ・ツアーはテーパー間にポータブルのDATデッキが広まり始めた時期と重なって驚異的な音質を誇るオーディエンス録音がいくつも存在します。名盤「STUTTGART 1991」などはその最たる例だったのですが、シュツットガルトから遡ること三日前にウィーンのインスブルックで行われた公演などはリアタイでも既に素晴らしいアイテムがリリースされていました。それが「OLYMPIC PLEASURE」であり、マニアには懐かしく思い起こされることでしょう。そこに使われたオーディエンス録音は大変にクリアーな音質であるばかりか、音像も非常に近く、1991年のオーディエンス・アルバムとしては申し分のないものであった。恐らくは録音した本人が自分で制作したアイテムだと推測されます。その音質の良さゆえにマニアには十分評価されたアイテムではあったものの、一方で一枚のCDにライブのすべてが収まるはずもなく序盤の数曲を始めとしたカットがあり、完全収録とは程遠い内容であった点が残念なアイテムでもあったのです。おまけに表のジャケに使われた画像がディランではなくバンド・ギタリストのジョン・ジャクソンの姿であったということも滑稽なアイテムでありました。その後91年夏のヨーロッパ・ツアー自体が時の流れと共に風化してしまうとインスブルックの完全版やアッパー版が出る気配などまるでなく、むしろマニアの関心は前後のツアーへに集まることが多く、91年のライブアイテム自体がすっかり鳴りを潜めてしまう状況へと陥ってしまったのです。その点においても「STUTTGART 1991」は文字通り一石を投じたリリースとなった訳ですが、今月ネット上には懐かしのインスブルック公演のオーディエンス録音がひょっこり登場したのでした。驚くべきはそのクオリティ。そもそも「OLYMPIC PLEASURE」とは別のオーディエンス録音ですし、それをも上回る極上レベルのオーディエンス録音。それでいて先の盤ではカットされていたライブ序盤やこの時期ならではのレア・レパートリーだった「Bob Dylan's Dream」までしっかり収録されたコンプリート・バージョン。オープニングが「New Morning」から幕を開けるのもこの時期ならでは。そして何と言ってもこの日はサイモン&ガーファンクルの「Homeward Bound」のカバーが演奏されて世界中のマニアをアッと言わせた日でもありました。同曲が演奏されたのは91年のステージで三回のみであり、言うなればこの年を代表するレア・カバーでもあったという。原曲のメロディを崩して歌うのが得意なディランではありますが、ここでは自身の声域の狭さと相まって高く歌われるメロディの個所ではことごとく下げて歌ってしまっているせいで、まるでウィーンの人たちはディランがS&Gのスタンダードを歌っているのかどうかを見極めているかのような、半ば戸惑い気味な空気感まで極上音質ゆえに伝わってくる(笑)。おまけに三回しか披露されなかったレア・カバーを最高音質で捉えてくれたのは非常にポイントが高い。かと思えば「ここモーツァルトの国で歌えて嬉しいよ」といったリップサービスを見せるほど本人はご機嫌な様子で、その余裕が驚きのS&Gカバーの披露へとつながったのかもしれません。何しろ音質が素晴らしく、なおかつ超レアなカバーまで聞けてしまう、今となっては忘れ去られてしまった91年ライブのアッパー版です!Olympiahalle, Innsbruck, Austria 14th June 1991 TRULY PERFECT SOUND Disc 1(58:36) 1. Introduction / New Morning 2. Lay, Lady, Lay 3. All along the Watchtower 4. Simple Twist of Fate 5. Gotta Serve Somebody 6. Bob Dylan's Dream 7. Don't Think Twice, It's All Right 8. Gates of Eden 9. It Ain't Me, Babe 10. Positively 4th Street Disc 2(39:03) 1. Just Like a Woman 2. Homeward Bound 3. Seeing the Real You at Last 4. I Shall Be Released 5. Like a Rolling Stone 6. Blowin' in the Wind 7. Highway 61 Revisited Bob Dylan - vocal & guitar John Jackson - guitar Tony Garnier - bass Ian Wallace - drums