ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス1969年の定番ライブ音源だったLAフォーラムがリリースされたばかりですが、この時期の彼らのステージは名盤「ELECTRIC LADYLAND」に次ぐスタジオ・アルバムまでの中継ぎとして企画されたライブアルバム用にいくつかのステージがマルチトラックで録音されています。それ用の収録の口火を切ったロイヤル・アルバート・ホール二日目に関しては映画としての公開を目的とした撮影まで行われました。ところがこれが裏目に出て、RAHに関してはどうしてもリリースが出来ない音源となってしまったのです。映像収録の契約が絡むと時間の経過とともにこじれてしまい、どうしてもソフトとしてのリリースが出来ないというライブがいくつも存在します。ビートルズのシェア・スタジアムなどは最たる例でしょう。近年、劇場公開こそ実現したものの、そこからのリリースにはつながらない。ジミの69年RAHも同様で、ソフトでのリリースがどうしてもできない。代わりに50周年記念にRAHを借りての一夜限りの上映が実現しただけにとどまったのでした。それどころかRAHの各マテリアルに関しては早い段階から契約がこじれてしまったようで、早々に映画は完成していたものの公開のめどが立たず。そうこうしている内に音源が流出してしまい、何とジミの存命中にブートが出てしまう有様。そして彼の没後はジミとつながりのないレコード会社から乱発されてしまったほどでした。この状況を受け、ジミ側で彼の没後に名ライブアルバム「IN THE WEST」がリリースされた際にはRAHのテイクから「Little Wing」と「Voodoo Child」を採用したものの、会場のクレジットを故意にサンディエゴと変えてリリースしなければならなかったのです。案の定これが問題となり、2011年になってCDが再発された際には別の日のテイクに差し替えるという憂き目に。こうした顛末を挙げればRAHが映画撮影の契約に足を取られてどうしてもリリースできない音源と化してしまったことが理解してもらえるでしょう。その後アナログ時代の名作コンピ「THE JIMI HENDRIX CONCERTS」、あるいはCD時代の名ボックス「THE JIMI HENDRIX EXPERIENCE」などでかろうじてRAHのテイクが小出しされてきましたが、どうしてもフルサイズのリリースができない。その代わりアンダーグラウンド界では早くから音源が流出してしまっていた訳ですが、さらに1990年代後半になるとジミと親しかったアニマルズのエリック・バードンが彼から譲り受けていたコピー・マスター・リールを通販オンリーのCDという形でリリース。当然これはジミ側から抗議がきて販売が取り下げられてしまうのですが、そこで出回ったバージョンが以降の高音質アイテムのベースとなってきました。ところが近年はRAH最初のショーである2月18日のサウンドボードが発掘されてマニアの関心が移ってしまい、古くからの定番24日が見過ごされるという予想外の展開となってしまいます。いくら18日の音源が貴重だとは言え、演奏内容や音質は24日の圧勝。また比較的最近のリリースであったラトルスネイクの「SMASHING THE AMPS」では、かなり派手なイコライズが施されており、むしろ新たな決定版の登場が渇望されていたのです。そんなRAHベスト・バージョンとしてトレーダー間に出回っていた「PRINCE ALBERT DOES NOT BITE THE TONGUE」。このままオフィシャルで出せてしまうレベルの完璧なマルチトラック・ステレオというだけでなく、余計な手が加えられていないバードン所有リールのナチュラルかつウォーミーな音質は正にフラット・トランスファーな状態。もし将来RAHがリリースされたとしても最新技術を駆使した仕上がりは免れない訳で、実際21世紀初頭にリリースされた「THE JIMI HENDRIX EXPERIENCE」ボックスに収められた「Little Wing」にはしゃきっとした質感のマスタリングが施されていました。その点この素直かつウォーミーな音質で聞く「Little Wing」は改めて稀代の名演だと痛感させられることしきり。いかにもRAHらしい静寂の中で本曲が披露され、なおかつマルチトラックで収録されたというのは幸運でした。何しろ今回のLAフォーラムはジミどころかノエル・レディングまでもが「みんな座ってくれ」と諭さなければいけないほどの喧騒に囲まれた環境でしたので、静かな楽曲である「Little Wing」を演奏するのが不可能な状況に近かった。そもそも久々のイギリスでのステージ、しかもRAHで実現ということからオーディエンスが固唾を飲んで一挙一動を見守っている様子が伝わってきます。そこに加えて映像撮影まで行われていたのですが、むしろ撮影班の存在など気にもせず、アメリカの狂騒から離れて演奏に集中できてる感すら。そして24日に関してはサウンドチェックまでマルチトラックにて録音されており、いかにこの日のイベント全体が公開を前提として収録されていたのかを物語っています。このパートに関してもTMOQスタンプカバーの「GOOD VIBES」LPなどを通して古くから知られていたモノラル音源ではありましたが、90年代にロングバージョンが発掘。さらにその後ステレオのバージョンが発掘されたものの、当初は故意にジェネ落ちさせた状態で出回ってしまいます。今回ライブ本番の元になった「PRINCE ALBERT DOES NOT BITE THE TONGUE」はそれを嫌ってモノ・バージョンを採用していたのですが、それでも当時ウォッチタワーレーベルの「ROYAL ALBERT HALL SOUNDCHECK」、あるいはラトルスネイクがジェネ落ちステレオを何とかイコライズで緩和させた「THE ROYAL ALBERT HALL REHEARSALS」などがリリースされたのでした。しかしジミの音源ネットワークである「ATM」が遂にステレオ最高音質バージョンを「EXPERIENCE」というタイトルで流通させた結果、世界中のマニアが音質差に唖然とさせられたのです。つまりライブ本番とリハーサルをどちらもベストバージョンで収めたタイトルというのがありそうでなかったという。それにリハーサルながらも収録を兼ねていただけのことはあり「Hear My Train A-Comin' (take 2)」はキレッキレですし、何度も試されたエルヴィスの「Hound Dog」もハイテンション。リハ音源にありがちなルーズさがないのも魅力かと。こうして本番もリハもマルチトラックの完璧ステレオで聞ける69年エクスペリエンスの最重要音源たるRAH二日目。その内容も音質も完全を期したことから、胸を張ってタイトルに「コンプリート」を冠したのです。アグレッシブな「動」のLAフォーラムと対をなす「静」の名演69年RAH二日目を完璧な音質! (リマスター・メモ)★位相修正して、さらに左右の音量を調整。大分バランス改善されてます★全体に潰れた波形を復元し、レンジが幾分広めのサウンドで堪能できます Royal Albert Hall, London, UK 24th February 1969 STEREO SBD(UPGRADE) Disc 1 (52:41) 01. Introduction 02. Lover Man 03. Stone Free 04. Hear My Train A Comin' 05. I Don't Live Today 06. Red House 07. Foxy Lady Disc 2 (49:56) 01. Sunshine Of Your Love 02. Bleeding Heart 03. Fire 04. Little Wing 05. Voodoo Child (Slight Return) 06. Room Full Of Mirrors 07. Purple Haze 08. Wild Thing 09. Star Spangled Banner Guest on "Roomfull Of Mirrors" Rocky Dijon - Conga Dave Mason - Guitar Chris Wood - Flute Disc 3 (52:11) SOUNDCHECK 01. Hey Joe 4:27 02. Hound Dog (take 1) 03. Hound Dog (take 2) 04. Hound Dog (take 3) 05. Hound Dog (take 4) 06. Hound Dog (take 5) 07. Voodoo Chile (Slight Return) (take 1) 08. Voodoo Chile (Slight Return) (take 2) 09. Hear My Train A-Comin' (take 1) 10. Hear My Train A-Comin' (take 2) 11. Ezy Rider Riff 12. Room Full Of Mirrors (take 1) 13. Room Full Of Mirrors (take 2) 14. Room Full Of Mirrors (take 3) 15. Room Full Of Mirrors (take 4) 16. Room Full Of Mirrors (take 5) 17. Bleeding Heart (take 1) 18. Bleeding Heart (take 2) 19. Bleeding Heart (take 3) 20. Message To Love Riff Jimi Hendrix - Guitar, Vocals Noel Redding - Bass Mitch Mitchell - Drums STEREO SOUNDBOARD RECORDING