伝説のテーパー、マイク・ミラードによるザ・キンクスのオーディエンス録音と言えば「LOS ANGELES 1978: MIKE MILLARD SECOND GENERATION TAPES」から始まって「HOLLYWOOD PALLADIUM 1981: MIKE MILLARD FIRST GENERATION TAPES」そして「L.A. FORUM 1983: MIKE MILLARD FIRST GENERATION TAPES」といった具合にアメリカでブレイクを果たした時期の各年代ステージを見事に捉えてくれていました。それでいて彼らの人気がアメリカで爆発した1979年のツアーというのが今まで出てこなかった。この年こそキンクスにとって大成功の一年であり、以降アリーナ・クラスの会場が当たり前となるほどビッグな存在へと進化したのです。そんな重要な時期である79年ツアーからも待ちに待ったミラードによる記録が公開されました。アメリカにおける出世作と言えるアルバム「LOW BUGET」を引っ提げた79年アメリカ・ツアーが行われた時点では、まだシアターやコンサート・ホールを中心としたスケジュールが組まれており、LAでもユニバーサル・アンフィシアターでの連続公演という形で行われています。ミラードが参戦したのはそんな連続公演の二日目。それまでもリンダ・ロンシュタットやボブ・ディランのステージを録音して勝手知ったる会場であり、彼はこの日も好ポジションを当然のように確保。ところが皮肉なことに、ミラードはここでキンクスの人気急上昇ぶりを目の当たりにする羽目となってしまいます。というのも彼の周囲の観客の盛り上がりが凄まじく、当たり前ではありますが、録音するミラードのことなどお構いなしの大フィーバー。いつも周囲の盛り上がりを絶妙なバランスで捉えることに長けていたミラードもこの日ばかりはその盛り上がりに押され気味。彼のオーディエンス録音としては珍しく(笑)騒がしい臨場感が例によって素晴らしいバランスで記録されてしまったという。そして極めつけは二曲目「Life On The Road」が始まると、左側の客から「捕まりたくなかったら、録音を止めるんだな」と警告されてしまいます。確かに正しいのはコンサートに盛り上がっている方なのだから、こればかりはいかんともしがたい。それにレイ・ディヴィスとバンドは絶頂期の真っただ中ということでハイテンションな演奏をやすやすと繰り広げている。周囲の盛り上がりに押され気味ではあるものの、それでも演奏をしっかりとした音像で捉えてくれているのはさすが。「(Wish I Could Fly Like) Superman」で弟デイヴが聞かせる爆裂ギターソロなど壮絶の一言。とにかくライブ開始直後は凄まじい盛り上がりで、それも「Misfits」あたりでひと段落。この調子で収まってくれればよかったのですが、そうしたタイミングで正に大ヒット中だった「Low Buget」からは再び大盛り上がり。最新曲で盛り上がれる現役感はこの時期ならではのもの。しかしミラードはここで我慢の限界に達してしまったようで、必殺の「You Really Got Me」から会場が爆発するような盛り上がり(当然かと)を見せると、同曲が終わるやいなや遂に録音を諦めてしまいます。そう、今回の録音はミラードによる初のキンクス79年ツアー音源の発掘であったと共に、彼にとって稀に見る受難の日の記録でもあった…それ故に不完全収録な訳ですが、フィーバーする観客と苦悩するミラードの対比が実に面白いドキュメント!Universal Amphitheatre, Los Angeles, CA, USA 17th August 1979 TRULY AMAZING/PERFET SOUND (56:35) 01. Sleepwalker / Tired Of Waiting For You 02. Life On The Road ミラードが左側の客から「捕まりたくなかったら、録音を止めるんだな」と警告を受ける 03. Where Have All The Good Times Gone 04. Permanent Waves 05. Misfits 06. Lola 07. Low Budget 08. (Wish I Could Fly Like) Superman 09. Catch Me Now I'm Falling 10. You Really Got Me Ray Davies - vocals, guitar, keyboards, harmonica Dave Davies - lead guitar, vocals Mick Avory - drums, percussion Jim Rodford - bass, backing vocals Ian Gibbons - keyboards, piano, backing vocals