あのロイヤル・アルバート・ホールの前日という極めて歴史的なタイミングの記録であった一方、音が「歪んだ」あるいは「遠い」オーディエンス録音としてハードルの高い音源でもあった1970年のブリストル。『THE BRISTOL STOMP』として初めてリリースされた際には、それこそファンにとっても踏み絵にすら映ってしまったほど。確かに1月のイギリス・ツアーはアルバート・ホール一択でしかなく、初めて他の日のステージを捉えた記録が発掘された意義は大きかったと同時に音があまりにも悪かった。それ故に音源の価値とは裏腹に、まるで腫物のように扱われてきたブリストル…むしろZEPマニアの間ではブリストルという地名こそが「音の悪いZEPライブ音源の代名詞」のようになってしまった程のではないでしょうか。聞きづらいマニア向けオーディエンス録音の典型としてブリストルの印象が決定づけられてしまったのです。もはや貴重だが聞きづらさの極地といえたブリストル。そんな踏み絵音源がまさかの大幅アップグレードを遂げた懐かしの名盤がリリースされた『OUT OF THE BRISTOL TALE』でしょう。海外マニアから提供されたアップグレード・コピーはオープニング「We're Gonna Groove」からしてその差は歴然としており、2009年当時のリリースは「これがあのブリストル?全然聞けるし!」と大きな反響を呼び起こしたものです。音質が向上したことで、それまでは伝わりづらかった演奏の素晴らしさも味わえたことも好評を博した一因でした。あの名盤のリリースからも15年近い歳月が経過。そもそも『OUT OF THE BRISTOL TALE』(以下“既発盤”と称します)自体がレーベルのアイテムの中でも特に入手困難なタイトルとなって久しかった。しかしアルバート・ホールの前日ともなれば演奏の素晴らしさは保証されたようなもの。そんな絶妙なタイミングのステージを捉えた貴重音源の再リリースは必然と言えるのでは。そこで名乗りを上げてくれたのが「GRAF ZEPPELIN」。元々ZEPビンテージ・オーディエンスのオーバーホールの達人だけに、ブリストルは正に格好の素材。彼は既発盤のリリース以来放置されていたアップグレード・マスターを借り受け、いつもながらの緻密な作業を敢行。既発盤のリリースによって画期的なほど聞きやすくなったブリストルではありましたが、そこは1970年のビンテージ・オーディエンス。特に曲間や静かな演奏の合間に混入してしまった「ブーン」というノイズが気になったのは事実。そこを「GRAF ZEPPELIN」ならではの卓越したセンスと15年の歳月に進化したテクノロジーのおかげで見事に抑えることに成功したのです。ビンテージな録音にありがちな定位の不安定さもきっちりアジャスト。そして既発盤以上に聞きやすくなったアッパー感は、改めてこの日の演奏の素晴らしさをリアルに伝えてくれるもの。翌日に収録を兼ねたアルバート・ホールという大一番を控えておきながら、手抜きは一切なし。そもそも基礎体力が高くて面白いように声が出るロバートと面白いように指が動くジミーの1970年はオープニングからエンジン全開が当たり前というもの。翌日にあれほどまで素晴らしい演奏を披露していた「I Can't Quit You Baby」からしてまったく引けを取っておらず、むしろ別の高みへと到達していたことが俄然聞きやすくなった今回のバージョンからはっきり伝わってくる。かと思えば「Since I've Been Loving You」では作者であるはずのジミーが曲の構成を間違えそうになり、そこをボンゾの一打が正すという微笑ましい場面も。まだ録音すら行なわれていなかった同曲が既にレパートリーに投入されていることからも察しがつくように、当時のZEPはまだまだステージ・レパートリーが揃っておらず、この曲やベン・E・キングのR&Bを劇的にアレンジした「We're Gonna Groove」をオープニングに据えるといった試行錯誤が続いています。さらにZEPの人気を決定づけた「Whole Lotta Love」も遂にレギュラーの座を獲得しますが、この時点ではまだライブ用の展開が決まっておらず、意外なほどシンプルな演奏が聞かれるのもこの時期だからこそ。当時は「How Many More Times」の存在感が大きく、これら二曲が共存しているのもまたこの時期ならではの面白さ。後者のメンバー紹介においてロバートが「Jimmy “Hootchie Coochie” Page」と紹介しているのも微笑ましく、翌日に大一番が控えているとは思えないほど余裕のあるところを見せつけてくれるフットワークの軽さが1970年ならでは。改めて名演であることを思い知らされるであろうブリストルの見事なアッパー版。リマスター・メモ ’90年代の最初のリリース「THE BRISTOL STOMP」と比べ、大幅にアップグレードした2009年登場マスターからの新規マスタリング!「THE BRISTOL STOMP」は恐らく4th ジェネレーションテープを基にしている。それに対し、2009年登場のマスター(TCOLZや今回盤で採用)はオリジナルマスターがベース ハムノイズ(低周波ノイズ)が除去され、ブーンという不快なノイズが緩和し聞きやすさが増しています。もちろんメタリックサウンドとは無縁のナチュラルサウンドですが、やり過ぎない程度のEQ処理等による帯域調整もなされ、既発との差別化もはかられています。位相修正(既発では右または左いずれかに偏っていた) Live at Colston Hall, Bristol, UK 8th January 1970 TRULY AMAZING SOUND(UPGRADE) Disc 1 (53:35) 1. We're Gonna Groove 2. I Can't Quit You Baby 3. Dazed And Confused 4. Heartbreaker 5. White Summer incl. Black Mountain Side 6. Since I've Been Loving You Disc 2 (39:54) 1. MC 2. Organ Solo 3. Thank You 4. Moby Dick ★カットイン、2分ほどの収録 5. How Many More Times 6. Whole Lotta Love 7. Communication Breakdown