レッド・ツェッペリンが1972年のアメリカツアー開始前にヨーロッパで行ったウォームアップ・ギグは『EUROPEAN WARM UP SHOWS 1972』という集大成がリリースされて大好評の内にSold Out。しかしその後、アムステルダムのギグに関しては衝撃の発掘であった『AMSTERDAM 1972 REEL ARCHIVES』のリリースが実現して現在も安定供給されるようになりましたが、そのせいで孤立してしまったのがブリュッセル。ウォームアップの貴重さだけでなく、モノラルながら驚くほどクリアーで聞きやすい音質には先に挙げたリリース時から定評があり、なおさら再リリースが待ち望まれていました。もっともアムステルダムと違いこちらは『EUROPEAN WARM UP SHOWS 1972』のリリース時からマスター直の音源が使用されており、音質的には極められた感がありました。そうなると既発からブリュッセルのパートだけを抜き出した二枚組としての再リリースも可能でしたが、何しろ非常に聞きやすい音質。おまけにこのタイミングで改めてマスター直のバージョンがネット上に現れてくれましたので、安直な再発ではなく、改めて音源を洗い直す形での再リリース登場となります。まず前回のリリースで攻め切れていなかった不安定かつ低かったピッチを徹底的にアジャスト。さらにはノイズもしっかり除去。ただでさえ聞きやすかったオーディエンス録音がいよいよ安心して楽しめるようになりました。この後に詳しく触れていきますが、ブリュッセルは本番アメリカツアーとはまるで違った雰囲気や演奏が本当に面白く、この特異な時期を味わってみたい…というマニアはもちろん、初心者でも十分に楽しんでもらえる聞きやすさが大きな魅力かと。ブリュッセルを捉えたオーディエンス録音は音像も大きめ(なおさら聞きやすい印象)ですので、オープニングにおけるロバートのキレが悪い声の調子も生々しい程に捉えてしまっている。この辺りも72年らしさが垣間見られる訳ですが、一方でジミーは開始直後から絶好調。聞いていて面白いくらい饒舌に弾きまくっており、狂騒のアメリカを前にむしろ落ち着いて演奏に集中しているようにすら感じられる。その最たる例が「Heartbreaker」のギターソロを終えたところで「Steppin' Out」のクラプトン・フレーズを弾くほどの余裕に現れたのではないでしょうか。その点ロバートはウォームアップの利点を最大限に活かして「Black Dog」も翌年以降のようなメロディを下げた歌い方で逃げます。それが「Stairway To Heaven」のエンディングになるとさらに顕著で、結果として声が若々しいのに歌い方が翌年のモードに近づくというレアパターン。おまけにライブ前半であれほどノリノリだったジミーがギターソロで何故か失速。こうした粗が散見されるのに、それでも演奏全体は覇気があるというこの時期にしか味わえない面白さ。この後のアコースティック・コーナーではロバートがいつになくイライラした調子で座らない、あるいは静かにできない観客に何度も注意を促し、挙句の果てには「Going To California」をやり直させる始末。音源を聞く限りではアメリカよりよっぽど落ち着いた雰囲気に感じられ、むしろ自身の声の煮え切らなさがそうさせたのかもしれません。もっとも皮肉なことにロバートはアコースティック・コーナーで完全に復調、前年のような声のキレが蘇るのが72年前半らしいところ。ライブの中盤から後半の展開がまた実に面白い。まず「Dazed And Confused」は後のようなメンバー間の駆け引きが控えめな展開ながら、それでいて既に72年らしい展開を予見させるというもの。それが20分足らずの演奏に凝縮されており、結果として非常に聞きやすい内容だと言えるでしょう。さらに「Moby Dick」が演奏されず(苦笑)、これがまたウォームアップという通常とは違うステージながら初心者でも十分に聞きやすい印象を強めている。この頃になると観客も静かになっており、それに気を良くしたロバート以下、バンドの演奏がどんどん楽しそうになってくるのです。その結果が「Whole Lotta Love」で延々と続くオールディーズ・メドレーにはっきりと。今回も残念ながらメドレーが終わったところで録音が終わってしまう状態は変わらないのですが、それでもこの長くて楽しそうなメドレーは本当に面白い。何と言っても邦題「悲しきインディアン」こと「Running Bear」をロバートが歌い出す場面は一連の72ウォームアップを代表する場面であり、この名唄をクリアーな音質で楽しめるのもブリュッセルの大きな魅力。オーストラリアツアーと同様、アメリカ前の72年ツアー前半に「親しみやすさ」を再確認させてくれる文字通りの隠れた名音源が改めてオーバーホールを施した上で待望のリリース。マニアックなギグなのにとっても聞きやすいという稀有な72年のオーディエンス・アルバム!(リマスター・メモ)ピッチがかなり遅いので修正しました。散見されたノイズ箇所の緩和 Forest National, Brussels, Belgium 28th May 1972 TRULY PERFECT SOUND(UPGRADE) DISC:1 (62:48) 1. Intro 2. Immigrant Song 3. Heartbreaker 4. Black Dog 5. Since I've Been Loving You 6. Stairway To Heaven 7. Going To California 8. That's The Way 9. Bron-Yr-Aur Stomp DISC:2 (54:29) 1. Dazed And Confused 2. What Is And What Should Never Be 3. Whole Lotta Love Medley