実質的にキース・ムーン存命時における最後の大規模なツアーとなった1975年から76年。この時期は録音機材の向上のタイミングと合わさって驚異的な音質のオーディエンス録音が豊富に残されていたのですが、そんな中で完全に見過ごされているのが12月11日のトロント。この日は正に極上なクオリティを誇るステレオ・オーディエンス録音が残されているのですが、その割にアイテムは懐かしのHEARTBREAKERSが出した『TORONTO 1975』だけという不遇の極み。今となっては覚えている方も少なくなってしまったかと思われますが、『TORONTO 1975』(以下“既発盤”と称します)のリリース時には音質が非常に良くてピッチも正確かつ鮮度も抜群ということでかなり高い評価をマニアの間で集めていた名盤だったのです。同レーベルはこの時期75年から76年にかけてのフーのライブを色々とリリースしてくれていたのですが、今ほど日本での彼らの人気、何よりこのツアーの人気が定着していなかった時期ゆえ思いのほか盛り上がらなかったように思えてなりません。こうした状況の中ですっかり見過ごされていた75年トロントなのですが、幸いにも音源自体は21世紀を迎えてもトレーダー間に流通。ジェネ不明とは言えども相当に鮮度は素晴らしく、確実にロウジェネな状態だと確信させてくれるほど。もっとも既発盤も同じバージョンを使用しており、音質的には既に極められた感のある音源でした。ところが元が1975年のオーディエンス録音ですので、テープ回転のヨレやこの後で詳しく述べるテーパーの落ち着きなさが相まって生じていた定位のふらつきなどが散見されたのは事実。それと同時に既発盤がリリースされた1990年代後半には修正が不可能であったこともまた事実。というか放置プレイ状態。そこで今回は「GRAF ZEPPELIN」がこうした問題を徹底的にアジャスト。元が非常に素性の良いオーディエンス録音ですので、ただでさえ聞きやすい状態に無敵の安定感が加わって2023年のレベルに相応しいアッパー版へと生まれ変わってくれたのです。こうなればマニアだけでなく初心者まで安心して楽しめるであろう素晴らしいリリース。当然ながら限定プレスCDしかありえない。広がりのある豊かな臨場感と共に驚くほどオンな音像、そして抜群の鮮度は今なお圧巻。その一方でジョン・エントウィッスルが歌う「Boris The Spider」の前ではテーパー自身が彼に向けて「Whisky Man!」とマニアックなリクエストを叫ぶ場面が登場しますが、この叫び声にピーンときたマニアは相当なマニア。そう、10日前に同じトロントのメイプル・リーフ・ガーデンで行われたボブ・ディランのこまた極上オーディエンス名盤『DEFINITIVE DOUBLE E'S』と同じ人物によるもので、そこで「Visions Of Johnna」とリクエストする声を上げていた張本人。さらに彼は半年前にジェフ・ベックのやはり75年オーディエンスの名作『O'KEEFE MASTER』と 『O'KEEFE MASTER II』の録音を敢行した人物でもある。どうりで高音質な訳だ。そしてメイプル・リーフ・ガーデンは一年後の『DEFINITIVE TORONTO 1976』としてツアーの終着地となった訳ですが、一年の開きがあるだけに同じ会場でも演奏の雰囲気がまるで違う。そちらがツアー最終日らしいストロングな完成度を誇っていたのに対し、この日はツアー前半らしい勢いが輝きを放っている。しかも先に触れた「Boris The Spider」でジョンの持ち歌は二曲というこの時期ならではの構成。翌年から彼のパートは「My Wife」だけに減らされてしまうので、これは75年を象徴するレパートリーでもあった。とにかく前半は演奏の勢いが素晴らしく一気に聞かせてくれる印象。そこから暴走モードへと進化したのが短縮版『TOMMY』セット。それは序盤からハイテンションで、中でも「Sparks」はピートの独壇場。そこで歌わないロジャーはタンバリンに没頭する訳ですが、彼の叩く音、さらにサウンドボードばりに近い音像で迫ってくるピートのプレイの分離の良さは衝撃的なほど。極めつけは暴走「I'm Free」から流れ込んだ「Tommy's Holiday Camp」を絶叫しながら歌うキースの振り切れぶり。完全にぶっ飛んでしまっている彼を受け止めて演奏が揺るがないのがお見事。ちなみに『TOMMY』パートのトラック割りが既発盤では大雑把でしたので、今回はしっかりトラック分け。この音質面と演奏面の両方で掛け値なしに75年ツアーを代表する極上オーディエンスが既発盤のリリース以来すっかり見過ごされていたとは驚き。むしろ今回のリリースで始めたこの素晴らしい音源に触れられる方が多いはず。その衝撃のハイクオリティな音質とハイテンションな演奏を「GRAF ZEPPELIN」監修で高められた完成度で心ゆくまでお楽しみください(リマスター・メモ)★2000年代からトレーダー間に流通するマスターからのリマスタージェネ不明ですが極上クオリティ。90年代にリリースされていた「TORONTO 1975」(2CD)[HB-808-1/2]と同ソースですが、回転ムラや位相ズレ、音量の偏りも解消された、まさに1975年トロント公演決定盤!★Disc2終盤も細かくトラック割りされています。Live at Maple Leaf Gardens, Toronto, ON, Canada 11th December 1975 TRULY PERFECT SOUND(UPGRADE) Disc 1 (45:24) 01. Introduction 02. I Can't Explain 03. Substitute 04. My Wife 05. Baba O'Riley 06. Squeeze Box 07. Behind Blue Eyes 08. Dreaming From The Waist 09. Boris The Spider 10. Magic Bus Disc 2 (59:06) 01. Amazing Journey 02. Sparks 03. The Acid Queen 04. Fiddle About 05. Pinball Wizard 06. I'm Free 07. Tommy's Holiday Camp 08. We're Not Gonna Take It 09. See Me, Feel Me 10. Summertime Blues 11. My Generation 12. Join Together 13. Spoonful 14. Road Runner 15. My Generation Blues 16. Won't Get Fooled Again