2005年10月の中盤以降の二週間は「A BIGGER BANG」ツアーのアイテムにとって完全な空白地帯となっています。これは音源が出揃わなかったのではなく、単に2005年アメリカのアイテムが当時飽和状態となってしまい、リリースが見過ごされてしまった時期だったのです。確かに10月の中盤は登場したオーディエンス録音の音質に恵まれていなかったというのも事実なのですが、それはこの時期に限ったことではなく、よりツアー序盤の音源においては、音質よりもリリースの早さを優先して音質が二の次とされたCD-Rアイテムが幅を利かせていたくらいです。8月末や9月のアイテムが市場に溢れてしまった結果として、10月中旬からの2005年ツアー音源のリリースが減少してしまったのでした。今回リリースされる10月30日のシアトル公演はそんな月の最終公演となっただけでなく、驚くほど音質の良いオーディエンス録音として世界中のマニアに注目されるであろう、初登場音源のリリースとなるのです。そのクオリティはとにかく聞きやすい。「まるでサウンドボードのような」と例えられるようなレベルの録音とは違いますが、ほんのり距離感と臨場感が合わさったクリアネスはお見事の一言。その程よい距離感がもたらしてくれた演奏の迫力たるや「これぞ理想的なオーディエンス録音」だと呼びたくなるほど。オーディエンス録音の最大の長所といえば臨場感。そこにストーンズ迫力の演奏が響き渡り、2005年10月ツアーにおける最後のアツい夜が約10年の歳月を経て蘇ります。とはいえショー序盤は2005年ツアーの序盤らしく、良く言うとドッコイショ・グルーブ感の全開な調子で幕を開けています。中でも「Shattered」はキースが弾き始めたイントロンのフレーズからしてドッコイショ感が強いもので、この時点においてシアトルのストーンズがエンジン全開だったとは言えません。そんなバンドをグイグイとひっぱるのはやっぱりミック。今回同時にリリースされる9月末のトロントでも見られた光景ではありますが、特にショー序盤はミックがバンドを自信たっぷりに牽引してみせる様子が捉えられている。ミックからすると、ツアー序盤でバンド全体のスイッチがオンになるまでに時間を要することは想定内なのでしょう。こうしたミックの張り切りのおかげもあって「Oh No, Not You Again」からは、まるでバンド全体が覚醒したかのような壮絶なテンションの演奏が繰り広げられるからビックリ。ここでの演奏の凄まじさを裏付けるかのように、当時この演奏がオフィシャル・サイトで公開されていたものです。この曲はトロントのBステージで演奏された際にも素晴らしい演奏が披露されていましたが、さらに上をいく壮絶なもの。それに何と言っても当時の最新アルバムのオープニングを飾った曲です。演奏が始まる直前、キースがギターを「ギュイン!」と鳴らす音を聞いただけでも、これから壮絶な演奏が始まるであろうことが想像できるはず。当時の新曲であまりにも判りやすいスイッチのオン状態からは、爆裂するかのごとく素晴らしい演奏が量産されます。元々2005年から2006年のツアーにかけては何度目かの絶頂期を迎えていた「Bitch」も最高の演奏ですし、その前の「Rain Fall Down」で炸裂するダリル・ジョーンズのファンキーなベース・ソロは彼のプレイの本領がいかんなく発揮されています。ショーがBステージに移ってからも音質が変化しないのもこの音源の大きな魅力ですが、その高音質で捉えられた「Get Off Of My Cloud」も60年代の勢いが蘇ったかのようですらあり、観客も大いに盛り上がっていました。そして「Brown Sugar」以降のショー終盤になると、文字通り雪崩れ込むかのような勢いで一気に駆け抜けてくれます。ここでも再びミックのテンションが高くなっているのですが、ショー序盤と違うのは彼のテンションにバンドもしっかりと付いてきているということ。まあ、とにかく物凄い勢いだこと。一週間後のハリウッド・ボウルでその勢いは暴走の域にまで達するのですが、正にその発火点となったのがこの10月最終ショーではないでしょうか。ここまで書いてきたように、音質と演奏の両方で申し分のない驚きの初登場音源であることに疑いの余地はありません。しかし元の音源は迫力がある一方で低音がきつく、演奏が遠い印象なので大きくイコライズしています。その成果が今回の圧倒的な聞きやすさへと結びついているのです。つまり、元の音源における音像の距離感は「ほんのり」といったレベルではなかった。しかし低域を緩和させたことによって演奏が浮き彫りとなり、距離感が驚くほどに緩和されました。そして演奏の素晴らしさもよりはっきりと伝わってくる…Live at Key Arena, Seattle, WA. USA 30th October 2005 Disc 1 (56:59) 1. Intro. 2. Start Me Up 3. Shattered 4. She's So Cold 5. Tumbling Dice 6. Oh No, Not You Again 7. Ruby Tuesday 8. Rain Fall Down 9. Bitch 10. Night Time Is The Right Time 11. Band Introductions 12. The Worst 13. Infamy Disc 2 (59:38) 1. Miss You 2. Rough Justice 3. Get Off Of My Cloud 4. Honky Tonk Women 5. Out Of Control 6. Sympathy For The Devil 7. Brown Sugar 8. Satisfaction 9. You Can't Always Get What You Want 10. Jumping Jack Flash