1965年夏のハリウッド・ボウルは激アツだった…いま改めてそう思わずにはいられません。ライブ・アルバムのCDリリースも記憶に新しいビートルズは8月29日と30日にここでライブを行いました。熱狂のビートルズ・ショウから一週間も経たない内に、今度はバンドを引き連れたボブ・ディランがコンサートを行っているのです。何という濃密な時期でしょうか。1965年当時、イギリスとアメリカにおけるロック界の巨人がそれぞれにハリウッド・ボウルのステージに上がっていました。ビートルズの方はキャピトルによって正規のライブ・レコーディングが行われたことがよく知られているのですが、実はディランのステージもサウンドボード録音が存在します。もうすぐオフィシャルでは1966年ツアーの壮大なボックスセットがリリースされるところですが、それに対してディランの「エレクトリック元年」となった65年はバンドを率いたライブの音源が非常に少ない。そんな状況で発掘されて90年代後半に大旋風を巻き起こしたのがハリウッド・ボウルのサウンドボード録音です。65年のディラン・ライブと言えば何といっても7月のニューポート・フォーク・フェスティバル。フォーク・ミュージックのフェスにおいてギンギンなロックを演奏してしまったという一大事件。さらには名曲「Like A Rolling Stone」の登場とヒット。ディランのロック指向を止められるものは誰もいない…そんな中で通常のライブ・ステージまでバンドを率いるようになり賛否両論を巻き起こしたのは有名な話。そうした初期のバンドとのライブ・ステージがサウンドボード録音で聞けてしまう…しかも場所はハリウッド・ボウル。あまりにも歴史的な価値の高い音源は当然ながら多くのアイテムを生み出します。しかし内容的に数曲足りないなど問題のあるアイテムも多く、専門誌などにおいては「FROM NEWPORT TO THE ANCIENT EMPTY STREETS IN LA」がベストとされていました。ところがそこではかなり派手なイコライズが施されており、ドンシャリとまではいかなかったものの、それでも原音とはイメージのかけ離れた音質に豹変してしまいました。元が1965年のサウンドボード録音ですから、ビンテージな質感が当たり前な音質を強引に変えようとしていた感が否めません。もう一つの問題はエレクトリック・セットで顕著なピッチの上昇。これによってディランの声が甲高く、さらに演奏のキーまで上がってしまう有様だったのですが、この状態をアジャスト、あるいは正確なピッチにて収録していたタイトルというのは皆無だったのです。イコライズと言えばこの音源、昨年リリースの「50TH ANNIVERSARY COLLECTION: 1965」にも含まれてはいたのですが、そこでもかなり原音のイメージを損なうようなイコライズが施されており、おまけに曲間はすべてカットというとんでもない状態でした。オフィシャルならば大丈夫かと思いきや、むしろひどいことになっていたのです。「Mr. Tambourine Man」が終盤でフェイドアウトするのは以前から変わらない状態だとして、もちろんピッチは放置プレイ。こうやって考えてみると、実は大事な部分がおざなりにされてリリースされて続けてきた貴重音源であるように思えてなりません。そこで今回のリリースに当たっては元のテープをイコライズなしに収録し、さらにエレクトリック・セットのピッチを補正。過去のアイテムの高めなピッチを聴き慣れたマニアの方には、むしろ演奏が遅く聴こえてしまうかもしれません。しかし今回の状態こそが正確なのです!ミキサー卓を経由したサウンドボード録音という概念が出来上がったばかりな音源ですので、例えばZEPのサウンドボード録音のような鮮度はなく、いかにも65年らしいビンテージな質感もこの音源の魅力。しかしクリアネスは抜群なのがサウンドボード録音でしょう。よくぞ録音しておいてくれたものです。この音源で聴くディランの最初期ロック・ライブ・サウンドは聴きどころの連続。何よりも驚かされるのは、ハリウッド・ボウルの前に行われたフォレスト・ヒルズでの公演において、バンドが登場するやないやブーイングの嵐となったのに対し、ここでは非常に和やかな雰囲気でライブが行われていること。アコースティックギター・セットの時の会場の反応が和やかなのは当然としても、エレクトリック・セットでここまで楽しげな雰囲気が伝わってくるのは、ニューポート以降のステージにおいて初めての現象であり、臨場感が低いサウンドボード録音からも感じられてしまうのだから相当なもの。とはいってもここでディランのバックを務めているメンバーがそれぞれに雇われの身であり、後にディランと親密になるロビー・ロバートソンですら同様。そんな中でむしろ存在感を放っているのはアル・クーパーが弾くエレピの音だったのです。それが非常にポップな雰囲気を醸し出しており、後のホークスとのステージとはまるで印象が違います。今回の正確なピッチで聞かれればなおさらかと。「Tombstone Blues」や「From A Buick 6」といった名盤「HIGHWAY 61 REVISITED」収録曲のリアルタイム・ライブ・バージョンがサウンドボード録音で聴けるのはあまりにもレア。それだけでなく「Ballad Of A Thin Man」がこれまた「HIGHWAY 61〜」そのままと呼びたくなる雰囲気で演奏されているのがまたレアでしょう。アルバム・バージョンからすぐにアレンジが進化してしまうのがライブのディランだけに、この雰囲気は本当に貴重。そして66年はもちろん、ニューポートともまるで違うディランとバンドこの時期だけのロック・サウンドを伝説の会場、ハリウッド・ボウルで披露したサウンドボード録音の決定版が遂に登場です! Hollywood Bowl, Los Angeles, California 3rd September 1965 SBD Disc 1 (42:04) 1. She Belongs To Me 2. To Ramona 3. Gates Of Eden 4. It's All Over Now, Baby Blue 5. Desolation Row 6. Love Minus Zero/No Limit 7. Mr. Tambourine Man Disc 2 (42:56) 1. Tombstone Blues 2. I Don't Believe You (She Acts Like We Never Have Met) 3. From A Buick Six 4. Just Like Tom Thumb's Blues 5. Maggie's Farm 6. It Ain't Me, Babe 7. Ballad Of A Thin Man 8. Like A Rolling Stone 9. Announcement Bob Dylan (vocal & electric guitar), Robbie Robertson (guitar), Al Kooper (organ), Harvey Brooks (bass), Levon Helm (drums)