今を去ること2年前、2014年の初頭に突如登場した「WISH YOU WERE HERE」と「ANIMALS」のアウトテイク集が究極クオリティで蘇りました。その衝撃の登場は、なぜか海外オークションで「FROM ABBEY ROAD TO BRITTANIA ROW - THE EXTRACTION TAPES」と題されたLP。そのオリジナルLPのPINK FLOYD編に可能な限りのリペアを施し、「WISH YOU WERE HERE OUTTAKES」「ANIMALS OUTTAKES」としてCD化を実施。瞬く間に完売する大人気タイトルとなりました。その後、大本となるカセット音源も登場しましたが、本作はそのカセット音源を海外のコア・マニアが心血を注いでリマスタリングしたものです。もちろん、大本カセットをソースにしているのですから、それだけで既発を超えるサウンドは約束されたようなものですが、施されたリマスターこそが驚異的。ちょっとイコライジングしたような安易なものではなく、ノイズを1つひとつ(手動で!)丁寧に取り除き、わずか0.025秒のギャップ、0.2dBの歪みさえも見逃さない。一瞬でも片方のチャンネルが落ちていようものなら、もう片方のチャンネルから継ぎ足して補填。作業を行ったマニアは「ヘッドフォンで聴いたら修復もわかっちゃうよ」と言っていますが、どう聴いてもそれが過剰な謙遜にしか思えない凄まじい出来映えなのです。もちろん、それだけの労力を惜しまないマニアですから、音楽に対する理解も深い。余計なイコライジングでオリジナル・カセットが本来持っていたサウンドを崩すようなマネは一切していません。そんなパーフェクト仕様で蘇ったアウトテイクスは、録音自体は基本的に「WISH YOU WERE HERE OUTTAKES」「ANIMALS OUTTAKES」と同じ。「基本的に」と書いたのは、2本の既発CDはLPをベースにしているため、“オリジナル・カセット→LP”の制作過程で追加されたテイクは入っていないのです。そのテイクは「Wish You Were Here (with Stephane Grappelli)」と「Pigs On The Wing Parts 1&2 (Extended Version)」の2つ。前者はオフィシャルCD「IMMERSION BOX」と同じテイクですし、後者はスノーウィ・ホワイトのコンピ盤「GOLD TOP」と同じもの。LPの制作者は「アルバム全曲の別テイクを」と考えて追加したのでしょうし、既発CDも衝撃LPを最良サウンドでお届けすべく収録しましたが、今回のテーマはLPではなく、オリジナルカセット・バージョン。別発掘のテイクはないわけです。その代わりではありませんが、1977年の「ANIMALS」リリース時にラジオで放送されたアルバムのCMが収録されています。そんな本作は「Shine On You Crazy Diamond (Parts 1-8)」でスタート。「WISH YOU WERE HERE OUTTAKES」が登場した際にも、公式アルバムで二分割されていた大作が1974年の英国ツアーと同じように一気に聴けることが話題になりましたが、今回はその究極サウンドバージョンです。“パート5”でディック・パリーのサックスも風のSEもなくノーカットで“パート6”へ繋がる瞬間。あの感動がさらに鮮やかに、パーフェクトな形で蘇るのです。もちろん、各パートも公式アルバムとは違う作業段階。イントロに頓挫した「HOUSEHOLD PROJECT」の断片を配した“パート1”。デイヴ・ギルモアのギターソロが途中からまるで違うフレーズになる“パート2”。公式のファンク風ジャムセッションがフェイドアウトしていき、“パート9”に繋がることなく終了する“パート8”等々など……他にも細かな違いは数え切れないほど。さらに続く「Welcome To The Machie」もVCS3の無機的なリズムをバックにロジャーがほとんどを録音した(ギルモアのトーキング・モジュレーターを使ったギターはあります)と思われるデモ・バージョンですし、「Have A Cigar」も「IMMERSION BOX」「EXPERIENCE EDITION」とも違う、1975年北米ツアーのライブアレンジそのままのオルタナティヴ・バージョン。ヴォーカルもロジャーとギルモアが2人で歌っていますし、最後もフェードアウトせず演奏終了までしっかり聴けるテイクです。テイクの衝撃度は「ANIMALS」編でも変わりません。のっけの「Sheep」からしてテイク違いや編集違いどころではない新鮮さ。なにしろ「Raving and drooling I fell on his neck with a scream……」と歌い出す1975年北米ツアーの「Raving & Drooling」そのままの初期バージョンで、イントロもエレピではなく「One of These Days」のようなベース。しかも、単なる初期アレンジなだけでなく、ロジャーのヴォーカルも凄まじい強烈なバージョンなのです。続く「Dogs」は、なんとロジャーが歌うバージョン。“BRITISH WINTER TOUR 1974”の初期段階でさえギルモアが歌っていただけに、これまたとんでもない衝撃トラックです。歌詞も異なり、特にラストで公式アルバムにはない「Who was fitted by bridle and bit?」「Who was given a seat in the stand?」「Who was forcing his way to the rain?」と歌っています。演奏・アレンジ面でも違いは大きく、フェイドインではなくカウントから演奏の総てが聴けるほか、間奏部で「stone……」のループパートが未完成だったのか、そこで一旦楽曲が途切れ、イントロに戻る。ギターもキーボードも公式アルバムとは異なるフレーズが随所に聴かれ、ギターソロ後半もまったく別です。「Pigs」はもっとも完成版に近いバージョンではありますが、それでもオーバーダブされたヴォーカルが別テイクですし、豚のSEやコーラスの一部、トーキング・モジュレーターを使用したギターソロがない等、かなり印象が違います。最後の「Sheep Sound Effects」は、「ANIMALS OUTTAKES」では「Message From The Sheep (Field Recording)」とクレジットされていたトラックで、ここではリマスタリング作業をしたマニアの表記に従いました。細々とポイントを解説して参りましたが、それらを1つひとつ気にしなくても、どの曲もパッと聴いただけでまったく印象が違う傑作テイクぞろいです。そんな衝撃テイクの数々が史上最高クオリティで蘇った1枚、オリジナル・カセットをこれ以上はあり得ないほど高めた1本です。執念にも似たマニアの精緻な作業と愛情が生んだ奇跡のサウンド、どうぞ存分に味わってください。
(74:25)
Wish You Were Here
1. Shine On You Crazy Diamond (Parts 1-8) 2. Welcome To The Machine 3. Have A Cigar
Animals
4. Sheep (Raving And Drooling) 5. Dogs 6. Pigs (Three Different Ones) 7. Sheep Sound Effects
Bonus Track
8. 1977 Radio Spot for Animals LP (KWST-FM)





























