今回、同時にリリースされるディランのライブ音源は1986年MSG以上に大きな驚きをもって迎えられることでしょう。2004年のツアーからの音源が限定のプレスCDでリリースされるからです。2004年と言えば、多くのマニアにとっては「最近」なイメージと映ることでしょう。さらに言うと、ディランがいよいよギターを弾かなくなってキーボード主体なライブ・サウンドへと変化し、ロック的なワイルドさが薄れてしまった時期。一般的な2004年ディランのライブ・イメージはそんなところかと思われます。しかしマニアは知っている。2004年のディランは飛び抜けたロックなサウンドでツアーを始めていたことを。この年最初のツアーは2月末から4月中旬までアメリカを回る行程で幕を開けました。ところがその会場はどれもクラブ・クラスの小さな会場ばかり。それまでにもディランはツアーの合間にクラブ・ギグを行うことはあったものの、ここまで徹底してクラブを回るツアーを行ったことが画期的でした。さらにこの時期、マニアの間で話題となったのは当時在籍していたギタリスト、フレディ・コエラのギター・プレイ。彼は2003年になってディランバンドに加入。当初は無難なプレイに終始していたのですが、秋のヨーロッパ・ツアーから突如ブレイク、武骨なリード・ギターで観客を沸かせるようになりました。ここでのプレイはキーボードに専心するディランの代わりに、コエラがディラン風リード・ギターを弾くようになったのでは?と思えるような武骨で一種、異様なワイルドさを持ったプレイと化していたのです。2004年最初のツアーになるとコエラのプレイはいよいよ凄まじいレベルへと昇格。テクニックを兼ね備えながらも武骨なプレイは大きな話題を呼んだのです。当然ながらバンド全体のサウンドも彼にひっぱられる形で激しいロック・サウンドへと豹変。このツアーがマニアの間で伝説化されるもう一つの要素、それはドラマーを二人雇った特異なバンド展開が挙げられます。つまり、ドラマーが二人いてもツイン・ドラムではなく、どちらかがドラム・キットに座った場合は片方がパーカッションを担当するという交代制。ドラマーの一人は2002年に加入して現在に至るまでディランバンド、ドラマーの座を不動のものとしているジョージ・リセリー。問題はもう一人のドラマー。元リトル・フィートで今は亡きリッチー・ヘイワードを雇い入れていたのです。何と贅沢なドラマー選択でしょうか。特異なプレイを聴かせるギタリストにドラマーが入れ替わる構成。これによって見事に激しいロックなサウンドがアメリカのクラブで連日繰り広げられていたのが2004年最初のツアー。その特殊な会場選択ゆえにテーパーが好ポジションを確保することが難しかったからでしょうか、このツアーはオーディエンス録音の音源に恵まれていない時期でもありました。3月21日のトロント・ギグを収録したRATLE SNAKEの「KOOL CAT PULLING OFF THE STRINGS」くらい。ところが同タイトルは当時の風潮を反映したイコライズ感の強い仕上がりであり、同レーベルの典型とも言える音作りでもあります。伝説のクラブ・ツアーからのリリースということでマニアには高い評価を受けたタイトルですが、今聴いてみればそのイコライズ感はかなりのもの。幸いにも時間の経過と共に良好なオーディエンス録音が発掘され、今回は3月31日のフィラデルフィアでのクラブ・ギグがリリースとなります。それはクラブならではの臨場感やクリアネスが素晴らしく、そこへこの時期ならではのワイルドなバンド・サウンドが猛威を振るい、ディランが思う存分シャウトする姿まで余すところなく捉えられています。それに何と言ってもナチュラルな音質。この日は「High Water」ディランがエンジン全開となり、やたらとワイルドに歌っているのが最高。もちろん彼を支える演奏がまた最高にワイルドで、中でも「Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again」と「Joey」において、ディランと対決するかごとく強烈なリード・ギターをコエラが炸裂させています。この時期はレアなナンバーが積極的に演奏された時期としても人気があり、ここフィラデルフィアではゴスペル時代の「Saving Grace」が演奏されている点がポイントでしょう。おまけにここでドラムを叩いているのがヘイワードという点も聞き逃せない。そしてボーナス・トラックにも強烈な演奏が詰まっています。ボブ・シーガーのカバー「Get Out Of Denver」は彼の地元デトロイトでのギグにおけるアンコールで披露されたものですが、超アッパーな演奏ぶりには誰もが唖然とさせられることでしょう。こんな強烈な演奏が2004年に披露されていた!そんなレアな演奏ですので「KOOL CAT PULLING OFF THE STRINGS」のボーナスにも演奏されていましたが、別音源を使用かつ今回の方が俄然ナチュラルな音質にて収録されています。もう一つのボーナスはボストン公演からこのツアーを代表するレアで、しかも最高にロックな演奏である「Down Along The Cove」。これらボーナスも素晴らしい音質のオーディエンス録音であり、ようやく登場した2004年クラブ・ツアーの魅力を凝縮した世界中のマニア注目のリリースとなることでしょう。このツアーの終了と同時にフレディ・コエラが脱退してしまったので、なおさらこの時期の異様でハードなサウンドは今なお色褪せないもの。2004年にクラブでロックしていたディランとバンド、幻の時期の集大成! Trocadero, Philadelphia, PA. USA 31st March 2004 TRULY PERFECT SOUND Disc 1 (58:34) 1. Introduction 2. The Wicked Messenger 3. You Ain't Goin' Nowhere 4. Cry A While 5. She Belongs To Me 6. High Water (For Charley Patton) 7. Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again 8. Joey 9. Leopard-Skin Pill-Box Hat 10. Ballad Of Hollis Brown Disc 2 (69:49) 1. Boots Of Spanish Leather 2. A Hard Rain's A-Gonna Fall 3. Honest With Me 4. Saving Grace 5. Summer Days 6. Cat's In The Well 7. Like A Rolling Stone 8. Band Introduction 9. All Along The Watchtower Bonus Tracks State Theater, Detroit, MI. USA 16th March 2004 10. Get Out Of Denver Avalon, Boston, MA. USA 26th March 2004 11. Down Along The Cove 12. Like A Rolling Stone