生涯最後のワールド・ツアーと宣言した“HOMEWARD BOUND: THE FAREWELL TOUR”が遂に完結。長い音楽人生で大きな節目を迎えたポール・サイモン。その最終盤を伝える極上ライヴアルバムが登場です。そんな本作に記録されているのは「2018年9月20日ニューヨーク公演」。伝統の大会場“マディソン・スクエア・ガーデン(以後、MSG)”2日間のうち、初日公演を完全収録したオーディエンス録音です。まずはメモリアルなワールド・ツアーの全体像を振り返り、ショウのポジションを確認してみましょう。 ・5月16日-6月20日:北米#1(21公演)・6月30日-7月8日:欧州(6公演)・7月10日-15日:英国(4公演) ー1ヶ月半後ー・9月5日-22日:北米#2(11公演)←★ココ★ これが“HOMEWARD BOUND: THE FAREWELL TOUR”の全体像。当店では、これまでフェアウェル・ツアーを模様を傑作『PHILADELPHIA 2018』『HYDE PARK 2018: THE FINAL UK PERFORMANCE』でレポートしてきましたが、前者は「北米#1」、後者は「英国」の代表作。それに対し、本作は最終盤「北米#2」の代表作となるもの。ラストショウまであと2つという最終盤の傑作録音なのです。実際、本作のクオリティは極めて端正で美しいオーディエンス・サウンド。「まるでサウンドボード!」と喧伝するタイプではないのですが、それは欠点ではなくむしろ美点。クリスタル・クリアに透き通った空気感が素晴らしく、素朴なアンサンブルは細部まで鮮明。MSGほどの大会場になると曇りや濁りも当たり前なのですが、それがまったく感じられない。その上で各楽器の1音1音が陽光に照らされたようにキラキラと輝くから素晴らしい。その要はアタック音の輪郭でしょうか。例えば、ギターならピッキングの立ち上がりまで克明ですし、ビンビンとハネるベースは弦の震えが感じられるほどに繊細。その1つひとつが透き通った空間の中で艶やかで鳴りつつ、混じり合わない。だから輝いて感じるわけです。この美しさは、芯が丸出しのサウンドボードでは決してあり得ないもの。極上のオーディエンス録音だけに許された美の世界なのです。 もちろん、もっとも美しいのはポールの歌声。大会場の隅々まで行き渡るのが分かるのに、不思議なほど反響が少ない。ポールの口元から発せられた声が息づかいレベルでまっすぐに手元まで届く。こちらも演奏と同じく透明感が絶品で、女声コーラスと絡んでも1人ひとりの声が綺麗にセパレート。そして、そこに加わる約2万人のコーラス隊こそが圧倒的! 実際、本作を一層素晴らしくしているのは大観衆の声なのです。詳しい録音ポジションは伝わっていないのですが、間近に騒がしい声が一切ない。その上で曲間で沸き上がる喝采は巨大でぶ厚く、ポールのジョークで沸く笑い声も極めて広い。その1粒1粒は小さい反面えらく繊細で、きめ細やかな砂粒が延々と広がる砂丘のようなスペクタクルを描いている。あくまでもポールの歌声が主役になりつつ、女声が脇を固め、2万人が付き従う……。その交歓はどこまでも暖かく、それでいて透き通っている。まるで唱和を許されたクラシック・コンサートのような美と感動の音世界なのです。 そのサウンドで描かれるショウもまた、どうしようもなく心を揺さぶる。セットはこれまでお伝えしてきた“THE FAREWELL TOUR”に準じたもので、特に英国ラストとなった『HYDE PARK 2018: THE FINAL UK PERFORMANCE』とは曲順まで同じ。デビューから半世紀を超えるキャリアを集大成しつつ、単なる有名曲の寄せ集めでもない。その要と鳴っているのは、9月リリースされた新作『IN THE BLUE LIGHT』ナンバー。過去のレパートリーから隠れた名曲をリ・レコーディングしたわけですが、そこから「Rene And Georgette Magritte With Their Dog After The War」や「Can't Run But」「Questions For The Angels」を披露している。こうした曲がヒット・パレードを安きに走らせず、ショウの感慨をさり気なく、しかし確実に深くしている。そのムードを胸いっぱいに吸い込んだ観客とポールが懐かしげに呼吸を交わす……その空間に全身を浸しきれるライヴアルバムなのです。とにかく美しいサウンドと、胸に迫るショウ。ラストショウまでカウントダウンにありながら、そこにあるのは寂しさではなく、名曲と共に歩んだ喜び。それを極上の美音で完全体験できるライヴアルバムの大傑作です。今後、フェアウェル・ツアーが公式に作品化されるかどうか分かりませんが、そこに本作の美はあり得ない。実際に客席まで届いた音だけが描ける美しさ。その美が染み渡る銘品です。 Live at Madison Square Garden, New York, NY, USA 20th November 2018 PERFECT SOUND Disc 1(78:27) 1. America 2. 50 Ways To Leave Your Lover 3. MC 4. The Boy In The Bubble 5. Dazzling Blue 6. That Was Your Mother 7. MC 8. Rewrite 9. MC 10. Mother And Child Reunion 11. Me And Julio Down By The Schoolyard 12. MC 13. Rene And Georgette Magritte With Their Dog After The War 14. Can't Run But 15. MC 16. Bridge Over Troubled Water 17. Wristband 18. MC 19. Spirit Voices 20. The Obvious Child Disc 2(70:21) 1. MC 2. Questions For The Angels 3. The Cool, Cool River 4. Diamonds On The Soles Of Her Shoes 5. You Can Call Me Al 6. Late In The Evening 7. Still Crazy After All These Years 8. Graceland 9. Homeward Bound 10. Kodachrome 11. The Boxer 12. American Tune 13. The Sound Of Silence