" Yeeshkul "。これはフロイドのファンが非公式音源を聴き進んでゆくうち、ある日必ずぶち当たる謎の文言でしょう。今ではそれが73年のフロイドを代表する大名盤の タイトルであり、この録音の数箇所で出てくる録音者自身の感嘆と歓びの言葉(※ 眼前でフロイドのショウを生体験している事の)である事は熱心なファンであれば御存知だと思います。ただ確かにこの声は本録音を特徴付けるものではあるの ですが、これが名録音たる本領は非常に質の高い音質で73年フロイドの音楽的興奮を録り切っている点に尽きる事もまた事実です。言わずもがなですが、この 音源はアルバム『狂気』リリースに合わせて行われた1973年第一次北米ツアー最初期(※ 僅か7公演目です!!)のトロント公演を収録した優れもので、この時期ならではの演目である「Obscured By Clouds」と「When You're In」が聴ける他、オープニングとしての「Echoes」が聴ける点も特筆される一枚となっています。御承知の通り73年公演は割と頻繁にショウ前半の曲 順・曲目とアンコール曲が入れ替わる面白さがある訳ですが、73年にこの大曲がオープニングを飾ったのは恐らく3月8日・10日・11日(※ 本作)の3回だけですから、このセットで聴ける最後のプログラムだった点でも希少性の高さを持っています。またショウ後半となる『狂気』完全再現も前年度 の未完成さの先にあった精緻な描写力が洪水の様に押し寄せ、その巨大な音楽的な流れに何度も身を委ねたくなる中毒性すら併せ持った魅惑の音源なのです。ここで改めて本音源の歴史を振り返りますと、この世紀の名録音は80年代半ば頃からコレクター間のテープ・トレードによって一部のマニア間で熱い注目を集 めていました。勿論それは録音者の特徴的な感嘆の声と下品なゲップに際立つ個性があった為でもありますが、しかし公演数の少なさ=録音現存数の少なさに よって姿が見え難かった73年公演の全容を、稀に見る特上音質で解き明かした録音であった事こそが評価されていました。またそうした先進的なマニアが注目 する音源であっただけに、これが初めて音盤化されたのも実はメーカー製作のCDタイトルではなく、よりコアなファンがトレード・テープを使って1997年 頃に製作した自家製ジャケ付きのプライヴェート盤CDRだった事も注目に値するでしょう(※ 勿論タイトルは当初から『Yeeshkul!』でした)。これがトレーダーのネットーワークや黎明期のインターネットを通じて広がり、マスターから枝分か れした幾つかの同一ソースや若いジェネのソースが徐々に姿を現してきた訳ですが、そうした流れにひとつの区切りを付けたのが2006年8月にSirene レーベルから登場した『Obscure Night (Sirene-171)』でした。これはそれまで玉石混交だったこのソースの最上級音質盤として当時大きな話題を呼んだタイトルでしたが、その6年後に 今度はこの録音の1st Genテープから24bit/96khzの高スペックでDVDオーディオに変換した新バージョンが突然現れたのです。そのサウンドの質感・ダイレクト感・ ボリューム感・スケール感は前述のSirene盤を超えるものだったのですが、しかしヒスノイズの残存や若干不安定な音の定位とピッチについての問題は全 く解決されておらず、1st Genによる音質向上の魅力を備えてはいたものの、クオリティとしては依然として難ありの音源だったのです。そこに登場したのが2012年6月にリリースされた本作『YEESHKUL (Sigma 80)』でした。業務用のハイエンド機材を用いて波形を睨みながら音の定位を整え、ピッチも厳密に補正し、原音に影響を与えないギリギリの線でノイズを緩 和することで、およそ考え得る限り最高のリマスター・サウンドを実現させたのです。その音像の奥行きと左右音域への目覚しい広がり、そして全体的にやや細 めだった出音が肉厚でタフなサウンドで甦った姿は、もはや単なるアッパー版というよりも1st Genテープの威力と高密度の情報量を完璧に再現するハイ・デフィニション・バージョンと言える仕上がりを実現しており、それは先行してネットで新バー ジョンの原音をチェックしていたマニアをも仰天させるものでした。勿論これは2016年現在でも全ての既発ソースを全滅させるクオリティを保っており、こ れを超えるにはもうマスターテープ原音しか有り得ないレベルなのです。例えば「Echoes」は相変わらず導入部が約1分間ほど経ってからのカット・インではあるものの(※ マスターがこうなっているのでしょう)、しかし1st Genならではの弾力ある中~低音域の高密度感がディスク・スタート時からいきなり感じられ、サウンドの質感と音楽的な神秘性が倍増しているのです。歌声 の異常なほどの近さも特筆され、終始上がったり下がったりする特徴的な旋律を出すギター・サウンドの色彩感も特級品です。また通常聴こえ難いベースの動き が明瞭に聴こえており、曲の展開部(※ 例えば6分13秒付近以降)ではその低音部の動きがこの曲のドライヴ感にどれほど多様な息吹きを吹き込んでいたのかも手応えあるラウドさの中で満喫出来る でしょう。鳴き声のシーンもサウンドが場内に設置されていた音群移動装置によって左右にゆっくり移ろいでいる姿が伺え、レコーダーの位置が遮蔽物が何も無 い良好な位置にあった事がおぼろげに見えてくるのも面白いところです。曲が終演に向かう姿も密度と重みを持つダイナミックな音の躍動を完璧に拾っています し、終曲後に入る録音者のゲップも左右チャンネルからステレオで凄まじく放たれます。「Obscured By Clouds」もそのワンノート・ジャムの浮遊感が鮮烈なサウンドで一気に拡散し、リズムが動き出してからのレンジの広さに驚かれるでしょう。特にベース とドラムは曲構造の底辺にある力強い響きがパーフェクトに出ていて、掴みどころの無い曲想が少しずつ変化してゆく中に各メンバーが様々なものを込めている 様子が伺え、それが「When You're In」でどう具体的な姿となって前に進んでゆくかがバッチリ伝わってくるのです。3分58秒付近から入ってくるオルガンもリックらしい旋律が力強く舞って おり、その後ろで更に運動性を増してゆくリズム隊も既発盤超えの圧倒的な聴き心地を存分に味わえると思います。「太陽讃歌」もむやみに装飾を詰め込み過ぎ ない曲構造の洗練されたシンプルさが1st Gen特有の至近サウンドで生々しく現れ、「ユージン」も各楽器の色彩豊かな音の移ろいが聴き手の無意識下に作用して、ライブならではのマジックが色濃く 滲み出ているのがよく分かると思います。中でもオルガンの鋭い響きと音の繋がりが一音一音これだけ明瞭に届くのは本作だけと言い切って良いでしょう。所々 で入るロジャーの奇声(※この日は特に多めです)も明瞭ですし、スクリームに至っては録音者の驚嘆の様子(※ incl, " Yeeshkul !")も相まって鳥肌必至の盛り上がりを見せており、聴き手と奏者のエネルギーの交流が高レベルで感じられる屈指の聴き応えとなっています。ディスク2は御馴染みの"狂気"完全再現ですが、これも導入のモノローグ部分からパーフェクトなサウンドが最後まで連発します。序盤で耳を惹くのは「On The Run」で、この日はSEを1分半近く流し続けてからアルペジオが登場するパターンなのですが、この間、ハイヒールの足音や女性のモノローグが明瞭に聴き 取れる事も特筆されます。また音群移動装置の効果と思われる左右へのサウンドの揺れ方(※ 1分50秒付近から徐々に目立ってきます)も過去最高の解像度で現れ、4分36秒付近からはロジャーが銅鑼を乱打する様子が御愉しみ戴ける事もトピックで す。「Time」も複数の時計が放つ冒頭ベルのコラージュ音が過去最高の精緻な音像で出てきますし、リックの旋律がひとつひとつ綺麗に出ている事や、中盤 から入るギルモアの歌唱と鋭いギターも1st Genならではの、それこそ過去に例の無い眩いサウンドで飛び出します。「The Great Gig In The Sky」は相変わらず序盤に僅かなカット(※ テープチェンジ?)がありますが、でも女性シンガーのボイス・ワークに演奏の運動性が反応して音楽が麗しく進行する姿が定位にブレの無いワイドな音像で出 てくるのは聴き逃せないところです。サックスが登場しない「Money」も1センテンス毎の瞬発力が良く出たパフォーマンスが間近から届く事で、質感の強 いシンプルな演奏力を御堪能戴けるでしょう。「Us And Them」では荘厳な響きと透明な音像に釘付けになると思いますが、熱の篭った音の響きの中に表現の緻密さも再発見されるに違いありません。そして 「Any Colour You Like」は何と言っても2分32秒から4分間以上も歌い続けるギター・ワークに尽きるでしょう。御存知の通りこの日のこのシーンは官能美そのものと言え る旋律のオンパレードとなっており、これが本音源史上最強の出音の間近さと鋭さで現れる姿に驚喜しない方はまず居ない筈です。エピローグに向かう 「Brain Damage」での音楽的な裾野の広さや「Eclipse」でのほとばしる旋律の流れも他日公演には無い大きな感動を届けてくれますし、アンコール 「One Of These Days」のタフなサウンドに至っては音域の全方向に放たれるド迫力の出音に仰天確実だと思います。中でもゴリゴリと分厚く刻まれるベースと伸びと幅の広 い響きを持った立体的なギター・サウンドは特筆モノで、曲想の不気味さを限りない熱っぽさに変質させているマックが1st Genならではの生々しい質感で甦るのです。ところで名録音とは一体何でしょうか。アレコレと定義を考えてみると、単に音質が良いものは音質優良ソースと言えるだけで、名録音とはまた違う様な気がします(※ SBD音源も同様でしょう)。非常に珍しいシーンを録
っているものはドキュメンタリーとしての資料的価値がありますが、しかしそれも音質の良さが伴わなければ良い録音とは言えません。名録音とは演奏と聴衆に 熱いエネルギーの交流が感じられ、そのうえで演奏音がド直球で鋭く耳元に飛び込んでくるものであり、なおかつ史料価値も高いものではないでしょうか。勿論 滅多にあるものではありませんが、でも本作に接すれば、これがその条件を全て充たしている稀有なフロイド73年音源である事に誰もが気付かされるでしょ う。とかくこの音源は生のフロイドに接して驚嘆する録音者の姿が浮き彫りにされがちですが、でもよく考えてみれば、彼をそれだけ熱狂させているものはこの 日のフロイドの強烈な演奏に他なりません。その特上の熱演に1st Gen究極のリマスター・サウンドで聴き迫れる点にこそが本作最大の魅力なのです。非公式盤まで聴き進める熱心なフロイド・ファンにとっては避けて通れな い73年の登竜門的な傑作音源、まさにフロイド73年ツアー最初期の全容を知る為のα(アルファ=始まり)であり、音質的にも資料的にもΩ(オメガ=到達 点)と言えるYeeshkulな名録音を、是非とも本作で御体験下さい!!
Live at Maple Leaf Gardens, Toronto, Ontario, Canada 11th March 1973 TRULY AMAZING SOUND(UPGRADE)
Disc 1
1. Echoes 2. Obscured By Clouds 3. When You're In 4. Set The Controls For The Heart Of The Sun 5. Careful With That Axe, Eugene
Disc 2 Dark Side Of The Moon
1. Speak To Me 2. Breathe 3. On The Run 4. Time 5. Breathe(Reprise) 6. The Great Gig In The Sky 7. Money 8. Us And Them 9. Any Colour You Like 10. Brain Damage 11. Eclipse 12. One Of These Days





























