連日、凄まじいまでの傑作を連発し、2018年最大のダークホースとなったNICK MASON'S SAUCERFUL OF SECRETS。その現場をマルチカメラで楽しめる映像作品がリリース決定です。そんな本作に収められているのは「2018年9月11日デュッセルドルフ公演」。現在、彼らは今年の予定をすべて終えてオフに突入。マニアによる録音の総括も収束に向かっています。しかし、映像はまだまだ元気。素晴らしいオーディエンス・ショットが飛び出してくるだけでなく、それらを駆使した編集作品も生み出されているのです。本作は、そんな中でも格別のマルチカメラ・オーディエンスショットなのです。気になるクオリティの前に、まずはショウのポジション。当店では、彼らのショウを数々のタイトルでレポートしてきましたので、日程で整理しておきましょう。 ・5月20日-24日:英国#1(4公演)・9月2日:ストックホルム ・9月3日『COPENHAGEN 2018: MULTICAM』・9月4日:ロストック ・9月6日『AMSTERDAM 2018』・9月8日:アントウェルペン ・9月9日:ルクセンブルク ・9月10日『PARIS OLYMPIA 2018』 ・9月11日:デュッセルドルフ ←★ココ★・9月13日『HAMBURG 2018』・9月15日:シュトゥットガルト ・9月16日『BERLIN 2018』・9月17日:ライプツィヒ ・9月19日『VIENNA 2018』・9月20日『LIVE IN MILAN 2018』・9月21日:チューリッヒ ・9月23日-29日:英国#2(6公演) これが現在までに開催されたすべてのショウ。大きく「5月のお披露目(英国#1)」「ヨーロッパ大陸編」「英国#2」に大別でき、本作はもちろん大陸編。上記は大陸編のみを詳しくまとめました。デュッセルドルフ公演はライヴアルバム『DUSSELDORF 2018』でも速報レポートしておりますが、本作はその映像編でもあるのです。そして、そのクオリティこそが絶品。さまざまに登場した細切れ映像を組み合わせてフルショウに仕上げられたマルチカメラ作品で、通常のオーディエンス・ショットとは異なる見応え、作り込まれた作品感が素晴らしい。見どころに沿って光景が変わる新鮮さもさることながら、本作の肝は編集のセンス。彼らのマルチカメラ作品と言えば超傑作『COPENHAGEN 2018: MULTICAM(Amity 476)』が話題を呼びましたが、実のところ、本作はあれほど多彩ではない。恐らくは登場した映像の数が違うのでしょうが、左右中央の角度は自在に変わるものの、プロショットばりのドアップにまでは至っていません。しかし、組み上げる編集のセンスは匹敵する。超接写が望めない事を逆手に取ったのか、中距離/遠景で幻想的なステージをムードたっぷりに描き出しているのです。もちろん、曲単位ではなくフレーズや小節単位で切り替わり、タイミングもビートとシンクロ。それでいてセンスを感じるのは1カットずつを長めに使っていること。マニアによるマルチカメラ編集は、ともするとネタの多彩さを自慢したくなってやたらとカットの切り替えがち。手元や表情のドアップならそれも効果的なのですが、全景カットの場合はそうもいかない。新しいカットが映し出されたとき、(瞬間的ながら)脳が注目するポイントを探すのに時間がかかる。そのため、遠景ばかりでこまめに替えすぎると見た目は大して効果的でないのに、何となく見づらくなってしまうのです。しかし、本作にはそれが起きない。美しいライティングがステージをじっくりと舐めまわす美しさをたっぷりと味わえ、それでいて飽きる前に次の光景へと移る。そのタイミングがきっちり曲想に沿っており、実に気品あるカメラワークになっているのです。さらに作品感を高めているのが音声。どんなに光景が変わってもサウンドはビシッと安定した一気貫通の極上録音。基本クオリティが圧倒的なだけでなく、こちらは距離感のないダイレクト・サウンド。そのため、バンドそのものとシンクロして感じられ、映像の距離や角度がいかに変わっても違和感が起きないのです。単に派手で見た目の良い素材を繋いでもそれなりにはなりますが、本作の完成度はそれ以上。素材の魅力を見抜く眼力、それを活かす編集力、初期FLOYDナンバーへの深い理解……そんなマニアの情熱とセンスに溢れた映像傑作なのです。そして、肝心なのはマニアにそこまでさせてしまうほど、彼らのショウが素晴らしかった。その音楽世界を音だけでなく、光景でもたっぷりと味わえる1枚。ぜひ、この機会に素晴らしきNICK MASON'S SAUCERFUL OF SECRETSの世界をご体験ください。 Live at Mitsubishi Electric Halle, Dusseldorf, Germany 11th September 2018(114:04) 1. Soundscape 2. Interstellar Overdrive 3. Astronomy Domine 4. Lucifer Sam 5. Fearless 6. Obscured by Clouds 7. When You're In 8. Arnold Layne 9. Vegetable Man 10. If 11. Atom Heart Mother 12. If (Reprise) 13. The Nile Song 14. Green Is the Colour 15. Let There Be More Light 16. Set the Controls for the Heart of the Sun 17. See Emily Play 18. Bike 19. One of These Days 20. A Saucerful of Secrets 21. Point Me at the Sky 22. End Credits Nick Mason - Drums Guy Pratt - Bass, vocals Gary Kemp - Guitar, vocals Lee Harris - Guitar Dom Beken - Keyboards COLOUR NTSC Approx.114min.