ほぼ四週間かけて行われたボブ・ディランのジャパン・ツアーは大好評の内に終了。当店も東京三日目から始まるアイテムのリリースを継続していますが、先週の仙台に続いて今回は大阪公演が登場。今回のジャパン・ツアーにおいて、大阪公演で選ばれた会場はあのフェスティバル・ホール。当店のアイテムを楽しみにしていただいているマニアの方であれば、ZEP929やパープルで説明不要な会場ではありますが、ロック界の重鎮たるディランがこの会場でライブを行ったのは、意外にも1997年のみ(2月17日)。それ以来のフェスティバル・ホールでのコンサート開催が今回実現した訳ですが、この間にホールは初代から二代目へと生まれ変わり、実質的に新しい会場でのコンサートだったと言えるかもしれません。今回は本会場において当初二回の開催がアナウンスされましたが、追加公演となる三日のショウがアナウンスされ、都合三夜連続で行われました。これは東京の時にも言えたことですが、間に休憩をはさんだ構成のライブだとは言え、三日連続スケジュールを軽々とこなすディランのスタミナには驚きを禁じえません。三日連続行われた大阪公演の中から、今回リリースされるのは三日目の4月13日。由緒あるフェスティバル・ホールで行われたにもかかわらず、大阪での三夜連続公演は進むごとに動員が鈍ってしまい、中でも追加公演たる三日目はディランの来日公演史上においてもワーストに数えられるのでは?と思われるほどの動員。おかげで二階席や三階席には黒いシートがかけられたほどだったとのことですが、それらの席を購入していた人が一階席に移れたというラッキーなエピソードまで起きたほど。このような状況ですと、ライブに必要な熱気が削がれてしまいかねない。しかし、こういうところがディランのライブらしいのですが、却って熱心なファンが集まる結果となり、会場内にはむしろ熱気を感じさせる雰囲気が漂っていたと言われています。それ以上に、らしいのがディラン本人。こういった状況でも腐ることなく、いやむしろ意に介すこともなく、いつも以上に気合の入ったパフォーマンスを披露してくれたのです。以前からディランは「観客が一人でもいてくれるかぎり、ライブ活動を続ける」といった趣向の発言を残していましたが、この日は正にそんなディランの面目躍如。オープニングからエンジン全開で最高の歌を聴かせてくれるではありませんか。この日はむしろディランからしても、さらには集まった観客からしても、その動員のせいでクラブ・ギグ状態。そうなると彼らとディランの間に特別なケミストリーが生み出されたとしても何ら不思議はありません。 そうした特別な状況がむしろ功を奏したライブの臨場感を見事に捉えてくれたのが今回収録されるオーディエンス録音。今までは当店が独自入手した音源をリリースまいりましたが、今回はネット上で広まった音源を敢えて採用したのも、その音源が持ち得る別格のクオリティに他なりません。とにかく音像が近い!それでいてオープニングからディランとバンドがトップ・コンディションにあることをいとも簡単に伝えてくれるのが「Things Have Changed」。序盤からドラマー、ジョージ・リセリのバス・ドラムのキックが心地よい!オーディエンス録音でこうした楽器の音を拾っている場合、低域がドンドコと響いてしまうことがままありますが、ここでは輪郭がぼやけることなくバスドラの音をキャッチしているのがお見事。さらに驚かされるのがスチュ・キンボールのリズム・ギター。もはや完全に「サウンドボード」の域であり、演奏の骨組みを支える彼のプレイがつぶさに聞き取れてしまうとは。そうした各楽器の見事なリアリティだけでなく、ディランのボーカルを含む演奏のウォーミーな空気感…これこそフェスティバル・ホールならではの臨場感。二代目フェスティバル・ホールの建造が発表された際には反対の声まで飛び交った、この会場ならではの「音鳴り」が見事に引き継がれ、ここに封じ込められています。当店がリリースしてきた過去二タイトルとは全く異質ながら、それでいて非常に魅力的な臨場感やウォーミーな味わいを捉えてみせた見事な録音、それこそが今回のリリースへと踏み切った魅力なのです。そしてディランも会場もとにかくアツい。前半終了時のMCでは「皆さん」という単語を「ミナサァーン」という、何とも独特なイントネーションで発してくれたディランは余裕に溢れています。しかも第二部からは会場の盛り上がりがヒートアップ。テーパーの周囲には外人客がいたのでしょう、ディランが熱唱してみせた(もっとも、今回は熱唱路線といっても間違いありませんが)「Sprit On The Water」では歌詞に反応して歓声が沸き上がるなど、ここでも過去二つのリリースとは違う盛り上がりや臨場感が素晴らしい。毎晩の高品位なバンド・サウンドが評判となった今回の来日公演における、本当にディランを愛するファンが集まった、文字通りのスペシャルな一夜をじっくりと楽しめる逸品です! Festival Hall, Osaka, Japan 13th April 2016 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters) Disc 1(46:41) 1. Things Have Changed 2. She Belongs to Me 3. Beyond Here Lies Nothin' 4. What'll I Do 5. Duquesne Whistle 6. Melancholy Mood 7. Pay In Blood 8. I'm A Fool To Want You 9. That Old Black Magic 10. Tangled Up in Blue Disc 2(57:10) 1. High Water (For Charley Patton) 2. Why Try To Change Me Now 3. Early Roman Kings 4. The Night We Called It a Day 5. Spirit on the Water 6. Scarlet Town 7. All Or Nothing at All 8. Long and Wasted Years 9. Autumn Leaves 10. Blowin' in the Wind 11. Love Sick