ユーライア・ヒープが結成されて2016年で45周年を迎える。45年間もバンドを維持するのは並大抵の努力ではない。バンド側の意思だけでなく受け入れるファンがいてこその45周年である重みを鑑みると、70年代の幕開けと共に鮮烈に登場したユーライア・ヒープの長い歴史に懐かしさを覚える往年のファンも多いのではないだろうか。 しかしその道程は平坦なものではなく、ユーライア・ヒープはバンド・メンバーの入れ替えが激しく、常に何らかのメンバー間のトラブルや意見の相違を抱えていたといっても過言ではない。何せデビュー・アルバムから『対自核』までの3枚のアルバムが全てバンドの基礎となるドラマーが異なるのである。現在に至るまでの歴代メンバーは熱心なファンでも把握できないくらい、かつてユーライア・ヒープを名乗ったバンド・メンバーは延べ人数で20人を超える。 日本でユーライア・ヒープの名がファンの間で高まってきたのは1972年『悪魔と魔法使い』がリリースされた頃であろう。同アルバムからは「7月の朝」「安息の日々」が日本でもヒットしている。何よりアルバムや各曲に邦題がつけられている事が、日本でも大プッシュしていた証明となり得るのではないだろうか。そして『魔の饗宴』がリリースされた頃には日本での人気を確実なものにしていた。わずか3年間に5枚のスタジオ・アルバムをリリースするなど、バンドの創作意欲が絶頂であった、そんな中で行なわれたのが1973年の来日公演である。そして前述のようにメンバーの入れ替わりの激しい中、歴代最強の布陣と言われているのがこの1973年の来日メンバーでもある。まさに全盛期のユーライア・ヒープを目の当たりに出来た日本のファンは幸福と言えるだろう。 1973年の来日公演は全5公演が組まれた。その幕開けとなったのが初日3月16日東京九段、日本武道館公演である。その後、名古屋で2公演、大阪で2公演が行なわれるのだが、東京はキャパの大きい武道館ということで1公演のみである。コンサートは少し時間が押して始まった。糸居五郎が繋ぎ弁士で語っているところによれば、このような準備の時間もユーライア・ヒープの公演の一部であり、司会者の言葉が終わった瞬間からステージが始まっていると語っている。そしてメンバーが登場してからも、かなり長い時間チューニングに時間が割かれている。トラックの分数でカウントすると約3分強。これもユーライア・ヒープによればステージの一部ということであろう。コンサートは当時の最新アルバム『魔の饗宴』のまさに1曲目「サンライズ」で始まった。厳かなキーボードの調べと共に重いリフと重厚なコーラスが武道館の雰囲気を一変させる。まさにこのコーラス・ワークこそ、ユーライア・ヒープの特徴が最大限に発揮された部分と言える。さらに『魔の饗宴』から「スイート・ロレイン」、『悪魔と魔法使い』から「時間を旅する人」「安息の日々」とキャッチ―なロック・ナンバーが続く。 そしてここからがユーライア・ヒープの真骨頂。今でも名盤のひとつと謳われているアルバム『対自核』収録の「7月の朝」である。激しいオープニングの後、まさに早朝を思わせる静けさ、ヴォーカルが入ると客席が沸くが、その後は再び静寂が武道館を包む。曲が盛り上がるにつれてコーラスが入り、音の洪水が大音量で鳴り響く。静動のメリハリをつけつつ演奏は延々となんと13分の長大なものになっている。ひとつのテーマで貫かれながら起伏ある曲構成、そして美しいメロディは、まるで長編の物語の読後のようなカタルシスを感じることができる。 そして次にさらに長大な曲が待っている。それが「ジプシー」である。バックでドラムが縦横無尽に叩きまくる中、激しいギターが重いリフを奏で、そこにヴォーカルとコーラスが乗るというユーライア・ヒープの特長が最大限に出ている名曲である。デビューアルバム「...ヴェリー・ヘヴィ・ヴェリー・ハンブル」の1曲目を飾るこの「ジプシー」は、スタジオ・バージョンでも6分半の長さだったが、ここではなんと20分以上に渡って演奏しているのである。途中に幻想的なギターソロ、そしてキーボード・ソロなどを挿入し、壮大な世界観を聴衆に提示している。本来「ジプシー」はこうあるべきものだったのだろう。ユーライア・ヒープの曲世界を表現するにはこの長さが絶対的に必要だったのである。スタジオ・アルバムではおのずと時間に制限がかかるため6分半に凝縮せざるを得なかったが、ステージではそのような制限はない。この圧巻の20分強に渡る演奏こそ、ジャンルを横断するユーライア・ヒープ独自の世界観の発露であろう。 前半とは打って変わり、中盤以降は長大な曲が続く。「連帯」「対自核」の2曲も10分以上に渡る演奏となった。特に本編最後の「対自核」は当時既に最大のヒット曲として浸透しており会場は非常に盛り上がっている。まず最初に手拍子による長いイントロがあり聴衆を煽り、コンサートは最大の盛り上がりを見せる。そして長大な曲が続いた後、アンコールの最後、コンサートを締めくくるのは、意外やオールディーズのメドレーである。「ベートーベンをぶっ飛ばせ」から始まり、「ブルー・スエード・シューズ」、「ハウンドドッグ」など、誰もが知っているロックンロールである。今までの曲調とまるきり異なるお馴染みのナンバーをメドレーで演奏することに違和感を覚えるが、これも彼らのルーツのひとつなのだろう。 この音源は当時、武道館に臨場したマニアが録音し、そのまま40年以上死蔵されていたものを、今回初めて世に出すものである。今まで一切出回っていなかった初登場音源にして完全収録。そして音質のクオリティはサンプル音源を聴いていただければわかる通り、非常に高音質なものである。今となっては歴史となってしまった1973年唯一の武道館公演を高音質の初登場音源で完全収録した貴重な記録である。 ハイトーン・ボイスによる絶叫系スタイルを浸透させたのがロバート・プラントであるなら、重厚なコーラスをハードロックに導入したのがユーライア・ヒープではないか。そしてまだ黎明期であったハード・ロックの様式が形成されていく過程で、ユーライア・ヒープの貢献度は非常に大きなものがあったといえる。本作で聴くことの出来る1973年3月16日日本公演初日の武道館公演は、時代的なアートロックの雰囲気を醸すキーボードの音色、メンバーによるコーラス・ワーク、そしてハードなギター、今では廃れてしまった部分もあるが、その様式美は確実に後世のハードロック・バンドに影響を与えたであろう事が如実にわかる音源なのである。 LIVE AT BUDOKAN HALL TOKYO JAPAN March 16, 1973 DISC ONE 01. Introduction 02. Tuning 03. Sunrise 04. Sweet Lorraine 05. Traveller In Time 06. Easy Livin' 07. July Morning 08. Gypsy DISC TWO 01. Tears In My Eyes 02. Circle Of Hands 03. Look At Yourself 04. Love Machine 05. Roll Over Beethoven - Blue Suade Shoes- Hound Dog - Let’s Go To The Hop - Shake Baby Shake