「TOMMY」期のザ・フー絶頂ライブ音源をリリース!1969年に同アルバムをリリースしてからの精力的なアメリカでのライブ活動は見事に実を結び、フィルモアからウッドストック、そして(フィラデルフィアの)エレクトリック・ファクトリーなどでの名演と確固たる人気を獲得しました。そうした大成功を受け、翌年1970年は母国イギリスでもリーズという歴史的名演と、そしてピートにとっては予想外の大成功だったというライブアルバム「LIVE AT LEEDS」まで産み出されています。そして前年末のロンドン・コロシアムと同じように、今度は6月からのアメリカ・ツアーでもオペラハウスでの「TOMMY」の上演を実現、これが大々的に報じられたことによって同アルバムのアメリカでの売り上げが飛躍的に向上したほどでした。同ツアーでは70年ライブ映像としては定番の一つであるタングルウッドのビデオ映像がおなじみですし、月末にはレッド・ツェッペリンを前座に従えた公演まで行われました。そしてアメリカでの人気爆発はブートレグという副産物まで産み出すことに。ザ・フー最初期ブートの一つに「GATHER YOUR WITS」というLPがあります。これは正に70年6月のアメリカでのザ・フーのステージを捉えたアイテムだったのですが、そこは初期のブートらしく、日付のクレジットに関しては「TOMMY LIVE from Austin, Texas」というあいまいさ加減。大ヒットした「TOMMY」のライブを収録ということがアピール出来れば十分だったのでしょう。それに1970年製ブートレグとしては驚くほどオンな音像のオーディエンス録音であったことも大きなポイントでした。もっとも現在では本LPのレコーディング・データも解明されており、実際には6月19日のダラス公演を収録していたもの。それが判明したきっかけは、LPの元になったオーディエンス録音がトレーダー間に出回ったからでした。これによって、一聴すると(当時にしては)良好に思えた音源もLP化された段階でガックリ落ちてしまっていた事実が判明。何しろステレオで録音されていた音源がモノラルとなり、さらにギスギスした状態にまで落ちていたのです。そこまで音質が変わってしまった原因は簡単。ブートレガーがテープを再生したスピーカーから音を拾ってコピーを作ったから。しかしダブルデッキや別のレコーダーへの接続システムが普及していなかった当時では、原始的ながらも当たり前のように行われていたダビング手法だったのです。またLPは「Young Man Blues」と「Substitute」が未収録だったのに対して、トレーダー音源の方はオープニングの「Heaven And Hell」が未収録という一長一短な状態でした。それでいて「I Can’t Explain」前で聞かれたキース・ムーンのMCはトレーダー音源の方が長いのがややこしい。ちなみに「TOMMY」パートの「Christmas」がフェードインという点は一緒であり、さらに随所で盛り上がる女性ファンの歓声(笑)までも一緒な点がステレオとモノラルの違いはあれど、元は同じ音源である証となっています。それにしてもトレーダー間で出回っていたバージョンの音質の良さには驚かされます。1970年のオーディエンス録音のレベルとしては驚くほど音像がオン、なおかつステレオ録音なのですから。こんな極上音源が見過ごされるはずもなく、過去に一度「WHO IS TOMMY」というCDにてリリースされた実績がありました。とは言ってもカセット・ダビングのジェネ落ち感とピッチの狂いもそのままでしたので、今回のバージョンの見事なアッパー感(セカンド・ジェネレーション・コピー)とは比べ物になりません。元々トレーダー間のバージョンはピッチの狂いがLPよりひどく(そちらの方が正常だった)、今回のリリースに当たってはこの問題を徹底的にアジャスト。これでリスニング上のストレスは激減しています。トレーダー音源において唯一の欠点としてはLPで聞かれた「Heaven And Hell」が未収録ということでしょう。ところが先にも述べたように音質の落差が激しく、なおかつ演奏の途中からの録音です。これを補填するとCDの最初が不完全な演奏から、おまけに音の悪いスタートとなってしまう。そして同曲を加えるとディスク一枚の収録時間に収まりきらないということから、あえて「Heaven And Hell」を「GATHER YOUR WITS」LPから採用することを避けました。何よりも音質の落差があまりに激しいので。演奏の方は全編を通して貫禄に満ち溢れた盤石のレベル。特筆すべきは「TOMMY」以外のレパートリーがリーズの頃から大幅に変更されたことでしょう。長年のレパートリーだった「Tattoo」や「A Quick One While He’s Away」が遂にセットリストから落とされ、代わりに新曲が投入されたのです。中でも「The Seeker」は既にシングルとしてリリースされていた当時の最新ナンバーであり、このアメリカ・ツアーからステージ・デビュー。にもかかわらず数回演奏されたのみで姿を消してしまい、以降オリジナルのザ・フーがライブで演奏することがなかった超貴重なレパートリーでした。その数少ないライブ演奏の中でもステレオの高音質で聞けるここダラスでの録音の価値は群を抜いています。そして「TOMMY」のリリースから経過し、なおかつオペラハウスでの上演を成功させた後ということもあり、同アルバムのセットは終始オーディエンスの熱狂的な反応が伝わってきて感動的です。それでも演奏が歓声にかき消されることは(まったく!)なく、むしろド迫力の音像と典型的なアナログ・テイストな音質で捉えられている上で、ステレオの豊かな臨場感が楽しめる。ライブの雰囲気や演奏の出来自体がこの時期の定番である三週間後のタングルウッドのプロショット映像を上回っており、「TOMMY」パート終了後のライブ後半が未録音(そこを「GATHER YOUR WITS」LPではアルバム未収録シングルのコピーで埋めていました)ながらも、スッキリCD一枚で最高のステージが堪能できます。マニアには先のビンテージLPで聞いていた音源のアッパー版ともなりうるでしょうし、何と言ってもこれは名演! Live at Memorial Auditorium, Dallas, Texas, USA 19th June 1970 (76:38) 1. MC 2. I Can’t Explain 3. Young Man Blues 4. Water 5. Seeker 6. Substitute 7. Overture 8. It’s A Boy 9. 1921 10. Amazing Journey 11. Sparks 12. Eyesight To The Blind 13. Christmas 14. The Acid Queen 15. Pinball Wizard 16. Do You Think It’s Alright? 17. Fiddle About 18. Tommy Can You Hear Me? 19. There’s A Doctor 20. Go To The Mirror 21. Smash The Mirror 22. Miracle Cure 23. I’m Free 24. Tommy’s Holiday Camp 25. We’re Not Gonna Take It 26. See Me, Feel Me