今回のモービルのサウンドボードが正に当てはまるのですが、昭和の頃はレアな音源がLP化されず、カセットのフォーマットによるアイテムとしてリリースされるということがありました。もっともLPアイテムをカセットに落として売られる頻度も高かったことから、カセットでのレア音源リリースが発展することは現実となりませんでした。むしろレアだったり高価だったりしたLPアイテムを安価なカセットで購入するというサービスの方がわが国では活発でして、実際にストーンズやビートルズのファンクラブなどでは紹介したLPをダビングしてくれたものですし、後者のイベントなどでは終了後にカセットが売られたもの。レコードやCDのショップにおいてもLPアイテムのカセットリリースは普及していましたし、音楽誌の広告にも普通に載っていました。そして昭和の頃には西新宿における複数の店でカセットアイテムが見かけられました。今やそうしたショップは跡形もなくなってしまいましたが、その店の一つは6割がLPからのコピーアイテムだった一方、残りは独自の来日公演オーディエンス録音をひっそりとリリースしていました。あまりにも懐かしいそのショップでのリリース、ファンクラブ方面のカセットと違ってカラージャケットに包まれていた点も独特の魅力を放っていたものです。そこで売られていた独自音源カセットの一つにレッド・ツェッペリン初来日の初日、9月23日の武道館があります。この公演に関しては何と十種類以上ものオーディエンス録音が存在しており、中でも「ROCK CARNIVAL」、「FRONT ROW」そして「TIMLESS ROCK」(あるいは「FIRST ATTACK OF THE RISING OF THE SUN」)が武道館初日の三大高音質音源として君臨しており、その他の音源は1971年当時の平均的なB級音質のレベルかと。今回リリースされるカセットアイテムに収録されていた音源も基本的にはB級のモノラル・オーディエンスであり、武道館初日三大音源以外のその他に加えられるレベルでしょう。ところがどっこい、これだけ大量の音源が発掘されている武道館初日において、今なお本音源でしか収録されていない場面があるという。それはZEPの登場前に場を盛り上げてくれたあのDJの語り。他のソースは彼の語りから収録していたとしても、それはZEPがまだ舞台袖に現れませんので、少しお話を…という場つなぎから始まっていました。ところがこの音源ではそれより前、DJが自分を自己紹介する場面から収録されているのです!この日のZEPの壮絶な演奏と同じくらい印象的なのがDJによる冒頭の語り。「日本のロックファンはレッド・ツェッペリン、大好き」という不朽の名文句だけでなく、ちょうどイギリスのロックシーンを見てきたばかりということからT・レックスやモット・ザ・フープルを挙げる一方、まだデヴィッド・ボウイの名前が出てこないところにグラム・ロック勃発前夜の1971年という時代感が伝わってきて面白い。それにしても、バンドが出てくるまでの場つなぎMCでこれほど印象的な語りというのもなかなかないですよね。さすがは名DJ、今回はそのスタート地点を収録しているという点が大きなポイント。アコースティック・セット「That’s The Way」が始まると当時の日本のロックファンらしさを偲ばせてくれる愉快な場面も登場。それはテーパーと連れの女性と思われる人物のやりとり。二人はジミー・ペイジの容姿について語り合っているのですが、ヒゲを蓄えたペイジの姿を見て彼の方は当時人気絶頂だった日本のフォーク歌手のようだ(「山谷ブルース」)、彼女の方はグレアム・ナッシュのようだと言っているのです。これもまた実に71年らしさが溢れています。 音質自体は先に挙げた三大音源の域には到底及びませんが、それでも十分に楽しめる、これぞ典型的なビンテージ・オーディエンス。モノラルで距離感のある音像ですが、いにしえの「TALES OF STORMS」や当店が以前発掘した音源を収めた「THE CALM AND THE STORM」などよりは確実に上。923こと武道館初日からの知られざるディファレント・オーディエンス・アルバムとしては非常に楽しめるクオリティ。こんなに音源が存在していて、それぞれを聞き込みたくなるというのが923の希有な点ではないでしょうか。むしろ本音源も1971年のビンテージ・オーディエンスの例に漏れず、すべての演奏が録音されていなかったという点の方が惜しまれるところ。今回は「Black Dog」と「Stairway To Heaven」が未収録、さらに「Whole Lotta Love」の前半で録音自体が終わっています。しかし音源が異様に豊富な923、ここではモノラル録音で音質イメージがそれほどかけ離れていない「REFLECTION FROM A DREAM」などで知られる、ネット上音源を補填要員として使用。それでも欠けていた部分は先の「THE CALM AND THE STORM」、さらには「TIMLESS ROCK」でお馴染みの音源をモノラル化してパッチして緻密にまとめ上げました。もちろんメイン音源はカセットアイテムゆえに狂っていたピッチがしっかりとアジャストされていますし、あくまでメインの音源をフィーチャーした内容ではありながら、それでいてショー全体が楽しめるよう仕上げてあります。ZEPライブ音源における登竜門の一つである923の中においては取り立てて音質が秀でたバージョンという訳ではないので、その点はマニア向けかもしれません。しかしビンテージ・オーディエンスかつアナログチックな音質は十分に魅力的。そして再生ボタンを押せばすぐに、今まで聞かれなかったDJの自己紹介が飛び出してくる場面は実に新鮮!伝説のZEP初来日公演の幕が切って落とされた瞬間がそこで捉えられていたのです。★いにしえのカセットテープからのデジタル化 伝説のDJの開始前アナウンスが既発より長い!初CD化のカセットテープ音源をもとに、別ソースで補填しトータル約2時間30分の疑似全長版で収録! 今回の編集メモ ・メインソース・・当時某店(DR)で扱っていたモノ Audのカセットテープ(約90分)・サブソース・・・Reflection From A Dreamなどで知られるモノ Aud(ネット音源)・さらにサブ(部分的)・・・以前のLHの1CDのCalm & Storm(モノAud)の音源を天国後の曲間で15秒程度使用 さらにサブ(部分的)・・・WTのTIMLESSなどで知られるソース(ネット音源)をモノ化し30秒弱使用 今回のメインの音源に近いと思われ、かつカットの少ないReflectionのソースをサブソースに選定されています Live at Budokan, Tokyo, Japan 23rd September 1971 Disc 1 (77:10) 1. Introduction★伝説のDJによる冒頭部分が既発より12秒ほど長い 2. Immigrant Song 3. Heartbreaker 4. Since I've Been Loving You★7:44(演奏後)以降Src5 5. Black Dog ★丸ごとSrc5 6. Dazed And Confused ★22:09(演奏後)以降Src5 7. Stairway To Heaven ★0:00-9:02 Src5 / 9:02-9:16 Src10 8. Celebration Day 9. Bron-Y-Aur Stomp 10. That's The Way Disc 2 (73:25) 1. Tuning/MC 2. Going To California 3. What Is And What Should Never Be ★4:35-4:45 Src5 4. Moby Dick 5. Whole Lotta Love ★ 8:51-17:31 Src5(Reflectionのソース) / 17:31-17:58 Src 6(TimelessのソースをMono化) / 17:58以降 Src5(Reflectionのソース)で補填 6. Communication Breakdown ★丸ごとSrc5