フレディ・マーキュリーがQUEEN以前に在籍していた幻のバンド、IBEX。その唯一無二となる貴重な音源が登場です。 【学生からQUEEN結成へと歩む道程】そんな本作に記録されているのは「1969年9月9日リバプール公演」。地元のクラブ“SINK CLUB”で録音されたライヴアルバムです。この録音はIBEX唯一となる音の記録として知られている……わけですが、その前に「IBEXとは何ぞや?」から始めましょう。まずは、フレディがイーリング・アート・カレッジを卒業した1969年まで時計の針を戻してみましょう。1969年・5月23日:ペンケス公演(IBEX初ライヴ)《6月:フレディがイーリング・アート・カレッジ卒業》《8月13日:フレディがIBEXに加入》・8月23日:ボルトン公演(フレディの初ライヴ)・8月24日:ボルトン公演 ・9月9日:リバプール公演 ←★本作★・9月19日:セント・ヘレンズ公演(?)《10月:IBEX→WRECKAGEに改名》《11月:WRECKAGE解散》1970年《2月:フレディがSOUR MILK SEAに加入》《4月:フレディがSMILEに加入》《7月12日:SMILE→QUEENに改名》 これがフレディのカレッジ卒業からQUEEN始動までの約1年間。IBEXはマイク・バーシン(ギター)、ジョン・テイラー(ベース)、ミック・スミス(ドラム)のトリオで結成され、1969年5月に1回だけライヴを行ったアマチュア・バンドでした。その後8月になってフレディが合流し、ライヴを3回(資料によっては4回)実施。10月には「WRECKAGE」と改名してデモを残すも、11月には解散してしまう。まさしくロック伝記にありがちな泡沫の地元バンドだったわけです。 【関係者が録音した唯一無二のライヴアルバム】さて、そんなIBEX唯一の録音である本作。先ほどから「サウンドボード」とも「オーディエンス」とも記していませんが、種別的に言いますとマイクを使用した空間録音……つまり「オーディエンス録音」です。ただし、単なる客録音ではなく、関係者によるもの。バンドのローディだったジェフ・ヒギンズは記録マニアでもあり、愛機「Grundig TK14」でさまざまなバンドを録音していた。彼はIBEXでもテープを回しており、それを後年になってQUEEN研究家のジョン・S・スチュアートに売却したのです。また、このテープからはビートルズのカバー「Rain」が公式化され、フレディのボックスセット『THE SOLO COLLECTION』に収録されました。『THE SOLO COLLECTION』を体験された方ならご存じとは思いますが、本作のクオリティは上記の経緯を証明するもの。ヴォーカルの伸びに空間感覚はあるものの、狭いクラブの密室感たっぷりで各楽器が1音1音までド密着。テープ状態からヴィンテージ感は滲みますがダビング痕などは感じられず、鳴りもセパレートも超鮮やか。もはやマイクを使おうが、ラインで録音しようが、それほど変わらないんじゃないかと思うほどオンな名録音です。本作は、そんな唯一無二のリール・マスターからデジタル化された録音の完全版。わざわざ「録音の」と付けたのにも理由があります。このテープは約30分で終了するのですが、当日はその後にアンコールがあった。このアンコールがまた歴史的でして、実は観客として現場にいたブライアン・メイとロジャー・テイラー(「We're Going Wrong」後のMCではロジャーの声援にフレディが「Thank you, brother!」と応えています)が飛び入り。残念ながらアンコールは録音されなかったものの、あの3人が始めて共演した夜だったのです。 【初期ハードロックが燃え上がっているリアルタイム感】もちろん、本作の真髄はショウ本編の10曲。フレディのオリジナル曲「Vagabond Outcast」も演奏されていますが、残り9曲はすべてカバー。最大のポイントは初々しいフレディの歌声なわけですが、そのセレクションも興味深く、ほぼ同時代にイギリスを湧かせていた最近曲がたっぷりなのです。前述したビートルズも演奏していますが、一番のメインはCREAMで「I'm So Glad」「We're Going Wrong」「Crossroads」と3曲も披露。さらに第一期JEFF BECK GROUPのレパートリー「Rock My Plimsoul」「Jailhouse Rock」を取り上げたかと思えば、極めつけはデビュー間もないLED ZEPPELINの「Communication Breakdown」。三大ギタリストによる「CREAM→JBG#1→ZEP」というハードロック創出の流れをものの見事に押さえており、さらにジミヘンやTEN YEARS AFTERも飛び出す。今まさに英国を焦がしていた新しい音楽「ハードロック」。後年の創作からは幅広い音楽趣味がうかがえるフレディですが、彼もまたハードロックにずっぽり浸って熱中していた。その熱がアリアリと伝わって嬉しくなってくるライヴでもあるのです。「QUEEN以前のフレディ・マーキュリー(当時はフレディ・バルサラ)」を教えてくれる貴重なライヴアルバムです。大物バンドのデビュー前音源と言うと資料的価値ばかりが優先しがちですが、本作は熱いヴォーカリゼーションとハードロック魂が渦巻くリアルなロック・アルバムでもある。初々しい23歳の歌声に思わずニヤけ、グーに握った拳が痛くなる1枚。QUEEN以前にフレディ・マーキュリーが在籍していた幻のバンドIBEX唯一無二の記録。「1969年9月9日リバプール公演」でローディが録音したリール・マスターで、一部が公式BOX『THE SOLO COLLECTION』にも収録されたテープの完全版。CREAMやJEFF BECK GROUP、LED ZEPPELIN等、初期ハードロックの名曲群を23歳だったフレディが熱唱する初々しいライヴアルバムです。客席にはブライアン・メイとロジャー・テイラーも見に来ており、ロジャーの声援にフレディが「Thank you, brother!」と応えるシーンも聴けます。全長版は史上初。超貴重です。(リマスター・メモ))序盤3曲が若干遅かったので調整した後、全体の音圧を上げました。 Sink Club, Liverpool, UK 9th September 1969 (Longer & Upgrade) (30:38) 1. I'm So Glad (Cream cover) 2. Communication Breakdown (Led Zeppelin cover) 3. Rain (The Beatles cover) 4. We're Going Wrong (Cream cover) 5. banter (Roger Taylor acknowledges Roger Taylor in the audience) 6. Rock My Plimsoul (Jeff Beck Group cover) 7. Stone Free (Jimi Hendrix cover) 8. Jailhouse Rock (Elvis Presley cover) 9. Crossroads (Cream cover) 10. Vagabond Outcast 11. I'm Going Home (Ten Years After cover)