1975年アメリカ・ツアーの三大オーディエンスと言えばマイク・ミラードによる4月のLAスポーツ・アリーナ、ジェリー・ムーアによる6月のナッソー・コロシアム、そして翌日のボストン・ガーデンが挙げられるでしょう。どの日も75年という時代を超えて現在でも通じるほどの超絶クオリティ・オーディエンス。実際あまりにも音質が良すぎて音源自体の検証も突き詰められた結果、この10年でそれぞれの収録アイテムも決定版がリリースされてきたもの。その先陣を切ったのがボストンでしょう。そもそもこの日はスティーブ・ホプキンスとダン・ランピンスキー両者による超絶クオリティ・オーディエンスが残されており、各「RAVE MASTER」系タイトルはもちろん、果てはそれらを組み合わせた「RAVE MASTER MATRIX」までリリースされていました。ところが、それらはどれも2012年までのリリースであり、出せども出せども売り切れてしまう(笑)。言うなればフロイド音源界における「エディー」のような存在。音質の向上した音源が登場する度にアイテムもバージョンアップを果たしてきた訳ですが、もはや10年近い歳月が経過(早いものですね…)し、意外にもSIGMAで現行アイテムが存在しないという現状。各種アイテムの再リリースが当然望まれていた訳ですが、もちろんこれほどまでの超絶クオリティのオーディエンス録音を10年前のまま出し直すはずもない。何より歳月が経過してテクノロジーも進化している。そこで今回はそれぞれの音源をネット上に出回っていた24Bit/96kHzのUnprocessedバージョンからCD化しました。まずスティーブ・ホプキンス(以降「ホプキン」と略します)マスターは2012年の時点で「BOSTON 1975: UNPROCESSED HOPKINS MASTER」という名作がリリースされたと同時にSold Outとなって久しかったのですが、今回も当時JEMSが公開して話題となったDATを経由していない初のダイレクト・マスター・トランスファーを使用しているのですが、当時は16bitバージョンを使用していたのに対し、今回は24Bitバージョンを使用しつつ、2012年当時よりもダウンコンバートの劣化を最小限にとどめて最後のダメ押しと言えるリリースを実現。もちろん極端な音質の違いは生じないのですが、それでもなお最良のバージョンであると断言いたします。そもそもホプキン・マスターは非常に骨太な印象があり、そこに驚異的な音像と相まって、それこそ「まるでサウンドボード」と形容したくなるような超絶クオリティで1975年ボストンの一夜を見事にドキュメントしてくれた録音。それだけに「Unprocessed」は必然。この信じられないようなクオリティを限界まで出し切ったのが今回のバージョン。そのアッパー感を解りやすく伝えてくれるのが「THE DARK SIDE OF THE MOON」パート。単に音像が近いというだけでなく、「Breath」が始まった瞬間に沸き上がる歓声の豊かでウォーミーな臨場感は2012年盤を凌ぐ再現度。また「Any Colour You Like」が始まった直後のニックとロジャーのリズム隊とカッティングに徹するギルモアの三人が一体となった演奏のディティールを完全に聞き取れてしまう信じられないほどのクリアネス。70年代に生み出されたホプキン・マスターの中でも最高傑作との誉れ高き極上音質に打ちのめされてしまうことかと。一方ダン・ランピンスキー(以降「ランピン」と略します)マスターですが、実のところ彼の音源の単体リリースは2009年の「DEFINITIVE RAVE MASTER」であり、2012年にリリースされたのはホプキン音源とのミックスである「RAVE MASTER MATRIX」であり、実は「Unprocessed」コンセプトでのリリースが実現していなかったという。2012年当時はそれと「BOSTON 1975: UNPROCESSED HOPKINS MASTER」で75ボストン・リリースが席捲された感あり、「Unprocessed」バージョンのランピン・リリースは見過ごされてしまいました。今回のリリースは今までありそうでなかったボストン75両音源のカップリングかつベスト・バージョンというのがコンセプトなのですが、むしろ目玉と呼べるのはランピン初の「Unprocessed」収録かもしれません。そもそも先代「DEFINITIVE RAVE MASTER」が10年以上前のリリースですので、今回24Bit/96kHzバージョンを使用すればアッパー感が生じるのは当然のこと。骨太な音圧が魅力だったホプキン録音と比べると繊細な高音の響きが魅力だったランピン録音。それが今回のリリースによって一段と伸びやかな高音を伴った驚異的な鮮度、それはまるで絹のよう。リックの弾くシンセ類のトーンがそれこそ伸びやかに再現されるのが彼の録音の魅力では。となればライブ前半の新曲セット、特に「Shine On You Crazy Diamond」でその繊細さが際立っている。この表現力が2009年版と比べて飛躍的に向上しており、なおかつ欠損部をホプキン録音で補うのは当たり前。これは掛け値なしに新たな決定版の登場と呼べるでしょう。考えてみれば同じライブを捉えた音源でこれほど二つのオーディエンスを聞き比べることが苦にならない録音というのもそうそうないのでは。迫力のホプキンと美しさのランピン、それぞれで前日の「THE DARK SIDE OF THE MOON」セット辺りから垣間見られていた演奏のレイドバック感がさらに顕著になっていた様子も味わえるのが凄い。何よりどちらも1975年のオーディエンス録音とは思えないほどのハイレベルな音質でありながら、それぞれに独特の味わいがはっきりある。2012年にはそれらを上手くミックスさせた「RAVE MASTER MATRIX」がベストセラーとなっていましたが、2021年に望まれるのはそれぞれ二つの音源を完全に、なおかつベストの音質で収録したバージョンではないか。おまけにどちらの音源も75アメリカの中では二枚のディスクに収まってくれた演奏時間であったことから、合計四枚でしっかり収まるパッケージもマニアには大いに重宝することでしょう。これまでも数多くの名盤を生み出してきたフロイド1975ツアーにおける最重要音源ボストンの今までありそうでなかった集大成。これぞ別格オーディエンス録音の見本というべきホプキン&ランピン両方の最強カップリング。初心者からマニアまで、ボストン75はこれでOK! (リマスターメモ)Steve Hopkins Master はそのまま。Dan Lampinski Master は速いピッチを修正。(Dan Lampinskiは曲中のカットが有るので補填しました。)Boston Garden, Boston, MA, USA 18th June 1975 ULTIMATE SOUND STEVE HOPKINS MASTER Disc 1 (55:53) 1. Introduction 2. Raving And Drooling 3. You’ve Gotta Be Crazy 4. Shine On You Crazy Diamond (Part 1-5) 5. Have A Cigar 6. Shine On You Crazy Diamond (Part 6-9) Disc 2 (79:46) The Dark Side Of The Moon 1. Speak To Me 2. Breathe 3. On The Run 4. Time 5. Breathe (Reprise) 6. The Great Gig In The Sky 7. Money 8. Us And Them 9. Any Colour You Like 10. Brain Damage 11. Eclipse 12. Echoes DAN LAMPINSKI MASTER Disc 3 (55:21) 1. Introduction 2. Raving And Drooling 3. You’ve Gotta Be Crazy 4. Shine On You Crazy Diamond (Part 1-5) 5. Have A Cigar 6. Shine On You Crazy Diamond (Part 6-9) ★2:36 - 2:50 補填 Disc 4 (79:59) The Dark Side Of The Moon 1. Speak To Me 2. Breathe 3. On The Run 4. Time 5. Breathe (Reprise) 6. The Great Gig In The Sky 7. Money 8. Us And Them ★0:05 - 0:25 補填 9. Any Colour You Like 10. Brain Damage 11. Eclipse 12. Echoes