間違いなく近代の洋楽アーティストの来日公演史における金字塔であり、その場に居合わせた者に一生忘れられないほどの熱狂や興奮を刻み付けたストーンズの初来日。実際に私もあの時の東京ドーム会場内の独特な匂いやスポンサーがくれたスポーツ飲料の味まで思い出せるくらい(笑)強烈に刻み込まれています。一時は映画の題材となるくらい「来日不可能グループ」だと思われたストーンズが遂に日本の地を踏んでくれた。それどころか一時は「解散か?」と言われていたグループがニューアルバムを引っ提げて来日してくれるだなんて。しかもバブルの絶頂にあった日本が一丸となった盛り上がりは、今なお語り継がれる伝説。そんな一大フィーバーとなったストーンズ1990年の初来日はテレビ収録からの各種放送、さらにはテスト撮影された日までも今やソフトとしてリリースされるなど、ツアー終盤は充実したアイテムが存在しています。しかし初日となった2月14日の東京ドームはただでさえ争奪戦となったチケットの入手が極めて難しく(私も外れました)、そのせいでオーディエンス録音すら広まらないという状況もまたこの日が日本のロックファンからどれほどの注目を集めていたのかを物語っています。案の定2月14日に関してはアイテムがリリースされることもなく、ようやく突破口を開けてくれたのが2003年来日公演ボックスのボーナスだった「THE FIRST NIGHT」。それも今や15年以上前のリリースですし、さらに近年は二つのバージョンがリリースされたほどの好評を博した「DOME ON WHEELS」ボックスに素晴らしい音質のオーディエンス録音が収録されてマニアから激賞されました。それらはすべて独自入手のオーディエンス録音マスターテープを使用していましたが、今回また別のオーディンス・マスターが東京ドーム初日に居合わせたマニアから提供されました。こちらはカセット録音ならではのアナログ感に溢れたもので、音質的には「THE FIRST NIGHT」と「DOME ON WHEELS」の間をいくレベル。つまり前者ほど優等生録音、あるいはクリアネスに秀でたものではないのですが、それでいて後者よりは明らかに聞きやすいかと。よって距離感のある音像なのですが、ましてや1990年の東京ドームですので、ライブ開始直後は団子状ですらある。その点はマニア向けでしょう。だがしかし、それでも初めて日本に姿を現したストーンズに対する興奮や熱狂ははっきりと伝わってきますし、ミックの歌もしっかり聞き取れる。そして録音は「Tumbling Dice」の演奏後半から見晴らしがよくなってクリアネスも向上。恐らくはテーパー自身も遂に目の当たりにしたストーンズを前に落ち着けず、同曲の途中から安定したポジションを確保できたのではと推測されます。そこからじっくり聞き込める状態となって、あの大フィーバーの初日が見事に蘇る様には鳥肌が立つほど。まず「Tumbling Dice」からしてイントロ以外の箇所でも大きな盛り上がりを見せますし、「Miss You」でも観客の反応は壮絶。改めて「これほどまでに盛り上がっていたのか?」と驚かされる一方、「Play With Fire」が始まった時の「何だか知らない曲みたいだけど、とりあえず盛り上がっとけ」的な空気感(笑)までもばっちり捉えています。一方でミック以下グループの気合が入りまくった演奏ぶりは改めて聞いてみても本当に素晴らしい。彼の「コンドハ…アタラシイ、ナンバーヲ。OK?」という明らかに緊張気味な日本語MCからの新曲二曲におけるミックの熱唱ぶりは凄まじい力の入りよう。一方で「Mixed Emotions」が意外なほどゆったり演奏されているのも今になって聞いてみると面白く感じられる点ではないでしょうか。続く「Honky Tonk Women」の出だしのメロディが怪しい場面などは、東京ドーム初日ということでPAからの返しが上手く作用しなかったからと思われる反面、ミックが気合入れ過ぎて力んでいるようにも映るという、なかなか微笑ましい瞬間でした。それ以上に忘れられない瞬間と言えばキース・コーナー。彼自身もまさか日本でこれほどまでの歓待を受けることなど予想だにしなかったことでしょう。とにかく彼が歌うべくMCを発した際の盛り上がりは異様なほどで、それもまたリアルに捉えてくれています。ここから始める「Can't Be Seen」でキースのハッスルしまくりな様子といったら!「日本のロックファンはキース・リチャーズ大好き」であることを彼自身が感じ取った故の反応でしょう。我々からしてみればキースが東京ドームのステージに上がってくれたことの感激があまりにも大きかったという。そして今回の録音の素晴らしい点として、カセットのテープチェンジがすべて曲間で行われているという事が挙げられます。ストーンズの来日公演初日という熱狂の中において、この仕事ぶりは見事というしかありません。おかげで別音源から補填するようなこともありませんでした。確かにトータルな音質は名作「DOME ON WHEELS」音源の域に及ばず、その点でマニア向けオーディエンス・アルバムなのは事実でしょう。それでもなお、あの伝説の初日の興奮を蘇らせてくれるには十分なレベルですし、この日の音源はいくつあってもマニアなら楽しめるはず。それに「DOME ON~」と違い、終演後のアナウンスまで収録というリアルなドキュメント性(「すいませ~ん」という退場するファンの声にほっこり)がポイント高い。何より力の入ったストーンズの演奏ぶりと熱狂しまくるオーディエンスの相乗効果は初日ならではのもの。あの歴史的な一夜からの新たなドキュメントとして楽しめる一枚の登場です! Live at Tokyo Dome, Tokyo, Japan 14th February 1990 (from Original Masters) Disc 1 (63:58) 1. Continental Drift 2. Start Me Up 3. Bitch 4. Sad Sad Sad 5. Harlem Shuffle 6. Tumbling Dice 7. Miss You 8. Ruby Tuesday 9. Play With Fire 10. Rock And A Hard Place 11. Mixed Emotions 12. Honky Tonk Women 13. Midnight Rambler Disc 2 (73:14) 1. You Can't Always Get What You Want 2. Can't Be Seen 3. Happy 4. Paint It Black 5. 2000 Light Years From Home 6. Sympathy For The Devil 7. Gimme Shelter 8. Band Introductions 9. It's Only Rock 'n Roll 10. Brown Sugar 11. Satisfaction 12. Jumping Jack Flash