ソロ名義の『FULL MOON FEVER』が大ヒットを記録し、時代の寵児となった1989年のトム・ペティ。その現場を伝えるマイク・ミラードの銘品が登場です。そんな本作に吹き込まれているのは「1989年7月29日ロサンゼルス公演」。その絶品オーディエンス録音です。『FULL MOON FEVER』に伴う“STRANGE BEHAVIOR Tour”のミラード録音と言えば、昨年発掘されて大評判となった名盤『COSTA MESA 1990 MIKE MILLARD MASTER TAPES』も記憶に新しいところ。本作は同ツアーで記録されたミラード録音の第二弾なのです。まずは、当時のスケジュールから姉妹作の位置関係を確認しておきましょう。1989年 《4月24日『FULL MOON FEVER』発売》・7月5日ー9月13日:北米#1(45公演)←★ココ★・10月28日:BRIDGE SCHOOL BENEFIT出演 1990年・1月26日ー3月6日:北米#2(26公演)←※COSTA MESA 1990・5月18日:ウィルミントン公演 これが1989年/1990年のトム・ペティ。ツアーは1989年夏の「北米#1」と翌1990年初頭の「北米#2」に分かれており、『COSTA MESA 1990』は後者のライヴアルバムでした。それに対し、本作はツアー序盤の「北米#1」。その17公演目にあたるコンサートでした。現場となった“ユニバーサル・アンフィシアター(現:ギブソン・アンフィシアター)”では3日連続公演が行われており、ミラードが観覧したのはその初日でした。そんなショウで記録された本作は、クリアさと極太な芯が両立したミラードの個性が息づく銘品。ただし、ミラード・コレクションでもトップクラス……とまではいかない。正直に申しまして“STRANGE BEHAVIOR Tour”なら姉妹作『COSTA MESA 1990』の方が一歩上手です。鋭い方ならタイトルでお気づきと思いますが、『COSTA MESA 1990』が大元カセットだったのに対し、本作は「1st Generation Tapes」からトランスファーされているのです。もっとも、通常なら1世代の差は録音の優劣を覆すほどの違いではない。しかし、本作の場合はテープ冒頭から序盤にかけて経年劣化が見られ(わずかながら)音が揺れる。もう1つ惜しいのは、観客の熱気。これも序盤だけの話なのですが、周囲の観客がちょっと騒がしいのです。なんだかお薦めしているのか違うのか分からなくなってきましたが、それもこれも「ミラード・コレクションだからあえて指摘せざるをえない」というレベル。普通基準で言えば、周囲の熱狂は天文学的ヒットの証ですし、テープの不安定感もないに等しい。もちろん、芯のダイレクト感やディテールの細やかさといった基本クオリティは文句ナシですし、開演から40分ほど経った頃からは名作『COSTA MESA 1990』にも匹敵する超・極上の音世界が広がるのです。そのサウンド以上に重要なのは、ショウそのもの。先ほどから「COSTA MESA 1990の姉妹作」と繰り返しておりますが、実は同じツアーにも関わらず、セットはかなり異なるのです。早速、比較しながら整理してみましょう。トム・ペティ&THE HEARTBREAKERS名義(13曲)・アメリカン・ガール:American Girl(★)/Breakdown ・破壊:Don't Do Me Like That/Even The Losers/Refugee/Here Comes My Girl(★)・ハード・プロミス:The Waiting/Something Big(★)・ロング・アフター・ダーク:You Got Lucky・サザン・アクセンツ:Don't Come Around Here No More/Rebels・レット・ミー・アップ:Jammin' Me(★)/How Many More Days フル・ムーン・フィーヴァー(6曲)・Feel A Whole Lot Better(★)/Free Fallin'/I Won't Back Down/A Face In The Crowd/Yer So Bad/Runnin' Down A Dream その他(4曲)・Ben's Boogie/Milk Cow Blues(★:ココモ・アーノルド)/Should I Stay Or Should I Go?(★:THE CLASH)/Keep Your Hands To Yourself(★:THE GEORGIA SATELLITES)※注:「★」印は姉妹作『COSTA MESA 1990(Zion-162)』では聴けない曲。……と、このようになっています。『COSTA MESA 1990』は大ヒット中の『FULL MOON FEVER』ナンバーやカバーに時間を割いていましたが、本作はツアー序盤なせいかクラシックスに比重が置かれている。大定番の「American Girl」も演奏されています(と言いますか、『COSTA MESA 1990』でやってなかった方が驚き)が、その一方で貴重な「Something Big」や「Jammin' Me」も披露してくれます。さらに様変わりしているのがカバー群。ココモ・アーノルドのスタンダード「Milk Cow Blues」やTHE CLASHの「Should I Stay Or Should I Go?」、THE GEORGIA SATELLITESの「Keep Your Hands To Yourself」と、全入れ替えになっているのです。同じバンドを二度録音したがらないミラードをして、何度も足を運んだ“STRANGE BEHAVIOR Tour”。その素晴らしいショウを絶対名手の銘品サウンドで楽しめるライヴアルバムです。総合点で言いますとツアー代表作は『COSTA MESA 1990』のまま。本作の登場を持ってしても、その玉座は揺るいでいません。しかし、ショウ内容があまりにも違いすぎる。本作は『COSTA MESA 1990』のライバル作ではなく、互いに補完し合う姉妹作。「1989年7月29日ロサンゼルス公演」の絶品オーディエンス録音。絶対名手ミラードの作で、プレス名盤『COSTA MESA 1990(Zion-162)』と共に『FULL MOON FEVER』大ヒット時代を伝えてくれる姉妹作。クリアさと極太な芯が両立したミラードの個性が息づく銘品で、「Something Big」「Jammin' Me」「Feel A Whole Lot Better」や貴重なカバー曲など、『COSTA MESA 1990』でも聴けないレパートリーも盛りだくさんのフルショウを極上体験できるライヴアルバムです。Universal Amphitheatre, Los Angeles, CA, USA 29th July 1989 Disc 1 (75:46) 1. Intro 2. I'll Feel A Whole Lot Better 3. Don't Do Me Like That 4. American Girl 5. Free Fallin' 6. The Waiting 7. Breakdown 8. I Won't Back Down 9. Ben's Boogie 10. Don't Come Around Here No More 11. Even The Losers 12. Milk Cow Blues 13. A Face In The Crowd 14. Something Big 15. Yer So Bad 16. You Got Lucky Disc 2 (37:51) 1. Rebels 2. Should I Stay Or Should I Go? 3. Keep Your Hands To Yourself 4. Refugee 5. Runnin' Down A Dream 6. Here Comes My Girl 7. Jammin' Me 8. How Many More Days Tom Petty - vocals, guitar, harmonica, keyboards Mike Campbell - guitar, backing vocals Benmont Tench - keyboards, backing vocals Howie Epstein - bass, backing vocals Stan Lynch - drums, backing vocals