サウンドボード録音が浸透している日でありながら、それでもなお同じ日のオーディエンス録音を聞く楽しさを教えてくれる…その典型的な音源がローリング・ストーンズ1973年のシドニー公演ではないでしょうか。都合二回行われた73年のシドニー公演は驚いたことにどちらのステージもPAアウトで、なおかつステレオに振り分けられたサウンドボード録音が流出していますが、初日の方はさらにオーディエンス録音が二種類も存在するという恵まれた状況。もっともサウンドボードが存在する以上、あくまでサブソース的な存在となってしまう訳ですが、それでも無視できない存在であったのは確か。そんな二種類存在するオーディエンス録音ですが、最初に登場した「recorder 1」はIMPレーベルの「WINTER TOUR 1973」にてお目見え。ところが当時ですらこの日はサウンドボードが席巻していたせいで見向きもされず。それでも面白いことに、もう一つの音源「recorder 2」もさほど時間を開けずにリリース。それがSリリースされた「VIP DISHED JOINT」だったのです。これらオーディエンス録音はどちらもモノラルだったのですが、まず「recorder 1」はギスギスとささくれだった質感でありながら、ストーンズの演奏やミックのボーカルが大きなバランスで捉えられていて本ツアーのオーディエンスとしては十分に聞きやすい部類に入るもの。その点「recorder 2」の方は演奏こそ大きめなバランスで捉えてくれてはいたものの、音質がこもり気味という問題を抱えていました。にもかかわらずDAC「HAPPY BIRTHDAY NICKY」など、サウンドボードをメインとしたアイテムの補填要員に用いられていたのは「recorder 2」の方でした。というのもトータルでは「recorder 2」を明らかに上回っていた「recorder 1」だったのですが、先の「WINTER TOUR 1973」(以下“既発盤”と称します)がジェネ落ちカセットを使用していたせいで本音源の聞きずらさが強調される結果となってしまい、音源本来の魅力が伝わっていなかったからなのです。そもそもサウンドボードが存在するせいでどちらのオーディエンスもアイテムがリリースされなくなって久しい音源だったのですが、今年に入って「recorder 1」に関しては突如マスター・カセットから収録したバージョンが登場。これが驚くほどの音質向上を遂げていたのです。もちろん1990年代のジェネ落ちカセット使用な既発盤と最新技術を駆使してマスターからトランスファーされたバージョンでは次元が違い過ぎて勝負にならないのですが、にしてもアッパー感が実に分かりやすい。ましてや既発盤を持っているマニアからすれば想像をはるかに超えた聞きやすさに驚かされるかと。さすがにマスター・カセットだけのことはあり、既発盤から一皮どころか二皮もむけて見通しの良くなったアッパー感、特に鮮度が素晴らしい。そこに加えて最新テクノロジーを生かして本音源のギスギスした質感をやりすぎない程度で抑えた結果、さらに聞きやすくなった。こうなると、いよいよ既発盤とは比べ物にはなりません。本オーディエンス最大の魅力は、何と言ってもサウンドボード以上にこの日の演奏のダイナミックさ、さらには凄まじいまでの盛り上がりまでリアルに伝えてくれること。確かにこの日のPAアウト・サウンドボードはステレオということもあって迫力満点であり、定番音源の一つとされていたのも当然。だがしかしPAサウンドボードの宿命というべきか、臨場感に関しては望むべくもない。ところがどうでしょう、本音源から伝わってくる盛り上がりの凄まじさといったら。最初にストーンズが登場しただけで手拍子の嵐ですし、「Honky Tonk Women」や「Little Queenie」における会場が一体となった盛り上がりの生々しさたるや、サウンドボードとまるで違うリアルなドキュメント感。さらにストーンズ登場前の会場の様子も捉えてくれている点も本音源の秀でたところで、「recorder 2」では既にストーンズの登場を告げる「2000 Light Years From Home」が流れる最中からの録音でしたが、こちらはそれが鳴る前のところから録音が開始されており、しかもそこで流されていたのがビートルズの「Don’t Bother Me」だった(渋い選曲ですね笑)ということを知らしめてくれたのも貴重でした。そしてサウンドボードでも実証されていましたが、二日前のパース、通称「HAPPY BIRTHDAY NICKY」ショーであれだけ奔放に歌いまくっていたミックがこの日は輪をかけてキレッキレ。疲れを知らない彼のハイパー・シャウトが会場に響き渡る生々しさもサウンドボードでしかこの日を聞いたことがない人には大きな衝撃を与えることでしょう。もちろんモノラル録音ですので、ヘッドフォンよりスピーカーから鳴らした方が楽しめる音源でもあります。さらには「Love In Vain」辺りからテーパー付近の女性客が自分より前の観客に「座れ」とたしなめる小競り合いが起きているのがまたリアル。それでいて先のような盛り上がりやこうした場面が演奏の妨げになるようなバランスに陥らず捉えられている点も本音源の大きな魅力。それに何と言っても「Brown Sugar」の序盤とライブ終盤の二曲がPAサウンドボードに収められなかった以上、未だに本音源の価値は色褪せていないのです。オーディエンス録音の長所たる「臨場感」や「演奏の勢い」をリアルに伝えてくれるシドニー初日の見過ごされていたアナザーサイド音源が驚異のアップグレード!Royal Randwick Racecourse, Sydney, Australia 26th February 1973 TRULY AMAZING/PERFECT SOUND(UPGRADE) Master Cassette Upgrade From Waz From Oz Archives Disc 1 (37:38) 1. Audience / 2000 Light Years From Home Intro 2. Brown Sugar 3. Bitch 4. Rocks Off 5. Gimme Shelter 6. Happy 7. Tumbling Dice 8. Love In Vain 9. Sweet Virginia Disc 2 (48:25) 1. You Can’t Always Get Want You Want 2. Honky Tonk Women 3. All Down The Line 4. Midnight Rambler 5. Band Introductions 6. Little Queenie 7. Rip This Joint 8. Jumping Jack Flash 9. Street Fighting Man 10. Land Of Hope And Glory with Fireworks Bonus Track11. 2SM Sydney Radio December 1974 Interview with Mick Jagger About Mick Taylor Leaving The Stones