大名盤「WILD FRONTIER」時代の隠れた名録音が復活です! 本作は「1987年8月14日ミルウォーキー公演」を収めたオーディエンス・アルバムで、現場となったのは、ミルウォーキーなのに“クラブ・ニューヨーク”という会場。以前にもリリースされたことのある音源ですが、既発では冒頭にカットのあった「The Loner」も完全に収録しているマスターを使用。録音やマスターの世代的には既発と似ていますが、最新リマスターにより、よりクリアで聴きやすく仕上げました。そうして蘇った本作の旨みは、そのクリアなサウンドにあるのですが、それ以上にスペシャルなのが、大名盤を創り上げてアメリカに挑んでいくゲイリー・ムーアの姿が生々しく伝わるドキュメント感覚です。本作を再生すると、もう冒頭から“当時の現実”が炸裂。観客がコールしているのはゲイリーではなく、DIO。この日のロニー・ジェイムズ・ディオはフィンランドにいたはずなので出演するはずもなく、現場でDIOの曲でも流していたのでしょうか……。すでにステージ上に立っていたゲイリーは開口一番「Fuck、ロニー・ディオがやるわけじゃないんだぜ」と言い、強烈なサウンドチェック音を聞かせる。ドラムやギター、「ワン、トゥ」というゲイリーのマイクチェックの後、「やるか!」の一声。エリック・シンガーの「Over The Hills And Far Away」のドラムイントロが強烈にスタートするのですが、そこへ会場DJの「Ladies & Gentlemen...Virgin Recording Artist, GARY MOORE!!」と被さるのです。前述のDIOコールといい、本人が出てきてから直前にサウンドチェックするところといい、曲が始まってからDJが紹介するところといい、日本やヨーロッパでは考えられない。現場がどの程度の会場なのか詳細は分かりませんが、どう聴いても小さいクラブなのは間違いないムードなのです。どこまでもアウェイな雰囲気が充満しているものの、一度ギグが始まってしまうと大いに盛り上がるのもアメリカらしいところ。広大なイメージを醸す「Over The Hills And Far Away」と狭いクラブは不釣り合いな気もしますが、曲が終わって吹き出す声援もまた、クラブとは思えないほど大きいのです。とは言え、完全に“クラブらしさ”が吹き飛ぶわけでもありません。イチバン強く感じるのは、クラブならでは激近サウンド。残響が広がるヒマもなく突きつけられ、ダイレクト感が凄まじい。それこそ、スタジオに同席して生演奏を聴いているかのような密着感でエメラルドのメロディが流し込まれてくるのです。その生々しさが殊更に鮮烈なのは、作り込まれた「WILD FRONTIER」が脳裏に焼き付いているからかもしれません。かの大名盤は、80年代らしいディレイサウンドやドラムマシンなど、スケール感を重視するあまり、生々しい“ロック感”とはちょっと距離がありました。ところが、本作は密室で爆発するクラブギグ。燃えたぎる演奏は、それこそ1983年の初来日かと思うほど熱く、血湧き肉躍るパッションが熱風となって吹きつけくるかのよう。どこか寒々しい、荒涼とした風景ジャケの「WILD FRONTIER」世界が、猛烈に熱い。もちろん、日本公演でも大人気のヨーロッパでも情熱的なライヴを聴かせてくれましたが、手を伸ばせば触れるほどに近い本作の熱さはハンパではない。最初はDIOコールをしていたアメリカのキッズを一瞬で制圧する様も爽快ですが、本作はそれ以上。タイトルの「WILD MOORE」は伊達ではないのです。ゲイリーの人生においても屈指の大傑作「WILD FRONTIER」。その世界を一気に染め変えてしまう1本。アウェイなアメリカだからこそあり得た名録音です。後の「STILL GOT THE BLUES」がゴールド・ディスクを獲ったとは言え、ゲイリーは生涯アメリカで実力に見合う成功を収めることはありませんでした。それだけにアメリカ録音は軽視されがちですが、彼の地だからこそのドラマと旨みがあるのです。そして、現実にゲイリーはその中で呼吸し、弾き、ロックしていた。それを知っていながら、忘れてしまうわけにはいかない。ひとりでも多くの方に、この醍醐味に気づいていただきたい。 Club New York, Milwaukee, Wisconsin, USA 14th August 1987 TRULY AMAZING/PERFECT SOUND Disc 1(42:14) 1. Intro 2. Over The Hills And Far Away 3. Thunder Rising 4. Shapes Of Things 5. Military Man 6. Empty Rooms Disc 2(45:37) 1. Out In The Fields 2. Murder In The Skies 3. Rockin' Every Night 4. All Messed Up 5. The Loner Gary Moore - Guitar, Vocal Bob Daisley - Bass Neil Carter - Keyboards, Guitar, Vocal Eric Singer - Drums