伝説のTMOQレーベルがリリースした二作目のボウイ・タイトル「THE ALL AMERICAN BOWIE」は一作目の1972年サンタモニカのラジオ放送と違い、今度は独自に73年のロングビーチ・アリーナで敢行されたオーディエンス録音を元にしています。実際に同会場ではTMOQのダブが何度も優れたオーディエンス録音を残したアリーナでした。よってこれも彼に手によるものかと思われていたのですが、ダブの録音というのはローリング・ストーンズの「LIVE’R THAN YOU’LL EVER BE」を始めとして本人がトレーダー間に流通させてくれた場合が多く、今では当時のLPより収録曲が増えて音質も向上したアイテムがリリースされています。ところが「THE ALL AMERICAN BOWIE」に関しては元の音源が流通しておらず、今なおLPでしか聞けないジギー期1973年の優良オーディエンス録音であり続けていました。おまけに同タイトルのリリースから五年もの歳月を経て「MY RADIO SWEETHEART」というコンピ盤にて未収録だった三曲が日の目を見るという変則的なリリース形態。そこに目を付け、二つのLPから丁寧にまとめられたファイルを元にした名盤がリリースされたCD版「THE ALL~」でした(以下“既発盤”と称します)。よって73年のロング・ビーチ&各種LPアイテムに関しては既発盤で極められた感があり、それ以上の何かが起こるとは到底思えなかったのです。その長年の状況に突如として一石が投じられたのは昨年発行されたTMOQレーベルに関する研究本「A PIG’S TALE」。そこで「THE ALL AMERICAN BOWIE」がダブではなく、後にレーベルを立ち上げるジョン・ウィザードによる録音であったことが明かされていたのです。つまりTMOQをリスペクトし、既に彼らと知り合っていたウィザードがダブの為に録音してあげた音源であったという。そうなると「THE ALL~」の元音源は現存しているかもしれない…少なくとも先の本にはダブがアルバム用に編集されたマスターの写真が載っていた。その一方で、ここ数年ウィザードが録音してくれたマスターテープの公開が続いており、彼が後にWizardoからリリースした「BOWIE 74」EPのマスターすら出現している。そうなれば当然「THE ALL~」の発掘にも期待がかかるというもの。そんな世界中のボウイマニアの見果てぬ夢が遂に現実のものとなる日が来ました。一時は紛失されたのではとすら思われていた「THE ALL~」のマスターが今年に入ってボウイのコア・コレクター間に水面下で出回っていたのです。そこから夏になって初めて音源が姿を現したのは超限定のLPによって。その名も「FULL AMERICAN BOWIE」というタイトルの超限定リリースはあっという間に売り切れてしまったのですが、それを機に元のマスターのファイルも流通し始めます。もちろん今回はイギリスのボウイ研究家からネットを経由せず直接音源を送っていただきました。晴れて全貌が明らかになったロング・ビーチのマスターを聞いてみればなるほど、いくつかの個所で不幸にも録音したマイクの断線に見舞われており、一枚のLPでリリースしざる得なかった事情が伺えます。そのせいで「Space Oddity」は途中からの収録となってしまっている。さらにアンコールの「The Jean Genie」と「Rock 'n' Roll Suicide」で断線が頻発していたのです。そんなアンコールの問題も可能な限り聞きやすく補正してくれた上で提供してくれたのが涙ぐましい。こうして日の目を見たマスターのおかげで既発盤の曲順が誤りであったことも判明したのですが、それ以上にマスターならではの音質向上が凄まじい。「THE ALL AMERICAN BOWIE」と「MY RADIO SWEETHEART」は70年代プレス故それぞれに盤質が悪く、それだけでも今回のマスターとの差が現れるレベルだったのですが、これが本来の音だったのか…とうっとりさせられる。例えばライブ後半の「Suffragette City」で聞き比べればその差は歴然。そして何と言ってもザ・スパイダーズ・フロム・マーズのメンバー以外にホーンやパーカッションといったサポート・ミュージシャンを加えた「ジギー・ビッグバンド」期かつ「ALADDIN SANE」モードのスタートであった73年のアメリカ・ツアー。この時期は2月のラジオ・シティ・ミュージック・ホールや3月のデトロイトのようなオーディエンス録音がクリアながらも音像に距離があり、そこはロング・ビーチが音像の近さや迫力で圧倒していた。それだけに今回のマスター発掘は画期的であり、そのアッパー感も目覚ましいものがある。特に「Watch That Man」を始めとした「ALADDIN SANE」からのレパートリーは迫力たっぷりに捉えられている。そして演奏がまた素晴らしい。この頃から「Moonage Daydream」のイントロがじらされるようになり、この日になるとフェアウェル・ショーの時のようなパターンが完成している。それでいてフェアウェルの時と違ってボウイが声を張り上げて歌ってくれるのがこの時期ならでは。しかし何と言っても今回の発掘によって驚かされたのは、ボウイが「My Death」を始める前に少しだけ「Memory Of A Free Festival」歌っていた場面。明らかに上機嫌な彼が曲の後半パートを少しだけ弾き語ってくれたのですが、これには誰もが驚かれることかと。 こうして古くから73年アメリカ・ツアー音質の良いオーディエンス録音として定評のあったロング・ビーチ「THE ALL AMERICAN BOWIE」のマスターが遂に発掘されました。先のような驚きの場面はもちろん、今回初めて正確なセットリストまで判明したという歴史的な発掘でもある。これは間違いなく全ボウイマニア必聴!世紀の大発見!!!アナログ「THE ALL AMERICAN BOWIE」の大元「マスター・リール」!!音質はレコードに比べ、比較にならない程、向上しています。 Live at Long Beach Arena, Long Beach, CA, USA 10th March 1973 TRULY PERFECT SOUND: UPGRADE!!!!) (79:52) 01. Wendy Carlos / Beethoven's Ninth Symphony: Ode To Joy 02. Hang On To Yourself 03. Ziggy Stardust 04. Changes 05. Moonage Daydream 06. Panic In Detroit 07. Aladdin Sane (1913-1938-197?) 08. Watch That Man 09. Five Years 10. The Width Of A Circle 11. Memory Of A Free Festival [Truncated] 12. My Death 13. Space Oddity [Incomplete] * 14. Time 15. Suffragette City 16. The Jean Genie * 17. Rock 'n' Roll Suicide * *Please note: During Space Oddity, The Jean Genie and Rock 'n' Roll Suicide, the microphone recording the performance suffers a cable short circuit. David Bowie: Vocals / Guitar / Harmonica Mick Ronson: Guitar / Vocals Trevor Bolder: Bass Guitar Woody Woodmansey: Drums Mike Garson: Piano / Organ Brian Wilshaw: Saxophone / Flute Ken Fordham: Saxophone Geoffrey A. MacCormack: Backing Vocals / Percussion