つい最近のストーンズ・ライブ期だと思っていた2002年の『LICKS』ツアーからも早20年が経過。スタジアム、アリーナ、そしてシアターという会場選択にて敢行されたツアーは当時大きな話題を呼び、行程が進むそばからリアタイで数多くのアイテムが生み出されたのも今は昔。それらの多くが現在では入手困難となってしまいましたが、中でも『LICKS』ツアーにおける目玉であったシアターギグは現在でも高い人気を誇っています。シアター故にレアな選曲のインパクトや面白さは今も色褪せていない。その画期的なシアターギグの幕開けとなったのがボストンのオーフェウム・シアター。『LICKS』ツアー開幕の地で行われた最初のシアターギグということから世界中のマニアが注目した一夜からは都合二種類のオーディエンス録音がリリース。VGP『65 LICKS』と『CLUB SHOW』それぞれが登場した訳ですが、音質的に秀でていたのは前者。無理もないことですがチケット争奪戦が繰り広げられた特殊なギグゆえ、どちらも少なからず距離感のある音像であり、その中でもVGP盤(以下“既発盤”と称します)に使われた、言うなれば「recorder 1」は今でも十分に通用する良好な録音。しかし時代はイコライジング・ウォーズの真っただ中。むしろ音源を何もいじらずに出してしまう事の方があり得ないと思われているようなご時世。それだけに21世紀を迎えてのデジタル・オーディエンス録音でありながら、それでも既発盤リリースの際にはがっつりとイコライズが施されていたのでした。そんな「recorder 1」の特徴としては、全体的にクラブらしいにぎやかで親密な臨場感を嫌味のないバランスにて捉えてくれていることで、例えば「Brand New Car」が始まる瞬間にテーパーの近くから口笛が飛び交ったのが特徴的だったのですが、この場面によって今回も同じ音源なのだと実感させてくれるはず。ところが今回のリリースによって元の音源のリリースとは音質がまるで違っていたことも実感させてくれるかと。既発盤は先に触れたように2002年のリリースらしく派手めなイコライズが施されており、2023年の今になって聞いてみると低音がドコドコ響いてある意味時代を感じさせる質感。確かに2002年辺りにはこうした音に仕上げられたアイテムが当たり前のようにリリースされていたものでした。今回はその点イコライズをほとんど施さず、生のままの状態にてリリースさせるのですが、あまりの音質の違いに驚かれるのではないでしょうか。というのも、その違いが一聴して解るくらいはっきりと現れているからです。つまり既発盤のイコライズはそれほどまで派手な仕上がりを見せていて、例えば「Brown Sugar」辺りでパッと聞き比べた感じでは別録音では?と錯覚してしまいそうなほど。それほど既発盤との違いが際立っており、今回は非常にナチュラルでスッキリとした印象。ただし本音源はオープニング「Jumping Jack Flash」の冒頭を録音し損ねており、既発盤は粗い音質の「recorder 3」にて開演前からそこまでを補填していましたが、今回は「recorder 2」たる『CLUB SHOW』から補填することでずっと聞きやすく、なおかつスムーズにまとめ上げました。そしてストーンズ自身も開始前から大きく力を注いで計画された三種類のステージ・タイプの中でも目玉となるクラブギグの一発目という事もあり、その攻めまくったセットリストは今なお斬新なインパクトを放つ。ギグの前半は完全にレア曲のオンパレード。先にも触れた「Brand New Car」、さらに通常のステージでは未だにこの日しか演奏されたことがない「Parachute Woman」が立て続けに演奏される様は圧巻。あまりにマニアックな選曲であったせいで、どちらもこの日のみの披露に終わってしまったのだと思われますが、それぞれの演奏が珍しいだけのレベルに終わらないのもこの日ならでは。これまでは特別な状況でしか開催されてこなかったクラブギグがツアーの一環として組み込まれ、その初回ギグとして遂に実現したボストンだけに、会場の盛り上がりも実にアツい。やはりライブ披露が世界中のマニアを狂喜させた「Heart Of Stone」で沸き上がる大合唱からも、そんな感激の臨場感がしっかり伝わってくる。それに何と言っても既発盤と比べて俄然ナチュラルな聞き心地。またツアー序盤でありながら、既にトロントでのウォーミングアップとボストンに着いてから二回の通常ステージをこなした後ということもあり、なおさらここで披露されたレアナンバーの数々の堂々たる演奏ぶりへとつながったのでしょう。文字通り攻めに転じたストーンズが満を持して開いてくれたクラブギグが初めて本来の音質の尊重したナチュラルなアッパー版としてリリース。その後もローズランドにウィルタンなど『LICKS』ツアー2002年クラブギグでは貴重なレパートリーが数多く披露されましたが、その中でもこの日のセットリストと演奏内容は格別!Live at Orpheum Theatre, Boston, MA, USA 8th September 2002 TRULY PERFECT SOUND(UPGRADE)(from Original Masters) Disc 1 (71:11) 1. Intro. 2. Jumping Jack Flash 3. You Got Me Rocking 4. All Down the Line 5. Brand New Car★ 6. Parachute Woman★ 7. Dance Pt. 1 8. Everybody Needs Somebody to Love 9. Heart of Stone 10. Going to a Go-Go 11. Love Train 12. Band Introductions 13. Slipping Away 14. Before They Make Me Run 15. It's Only Rock 'n' Roll Disc 2 (42:54) 1. Rock Me Baby (with Buddy Guy) 2. Hand of Fate 3. Can't You Hear Me Knocking 4. Honky Tonk Women 5. Start Me Up 6. Brown Sugar 7. Tumbling Dice