ジェフ・ベックとヤン・ハマー・グループによる1976年のツアーは正に絶頂期というだけでなく、年代を考えると信じられないほど良質なオーディエンス録音に恵まれた一年でして、何しろ最初のステージからして名盤『FIRST GIG』として記録されているという有様。それどころか最近になってもLP時代にベック&ハマー・グループのライブの素晴らしさを伝えてくれていた名盤アナハイム・スタジアムの収録曲マシマシ『ANAHEIM 1976: JON WIZARDO MASTER』という衝撃の拡張版がリリースされたほど。何よりオフィシャル『ライブ・ワイアード』がリリースされた時期でもあった訳ですが、とてもよくまとまった名作ライブアルバムであった反面、現在のようにステージをありのままに捉えた極上オーディエンス録音が出揃ってくると実際のステージとはかけ離れた編集内容であったことが露呈してしまったのでした。当日のセットリストの原型を留めない曲順は仕方ないにしても、一枚のLPに収めるべくベック以外の演奏パートを短縮するなどの編集が施されていた。それに76年のステージはまずハマー達でステージを始め、ベックが「Darkness, Earth In Search Of A Sun」の途中から加わるという構成。それもまた『ライブ・ワイアード』では無残なまでに崩されてしまっていたのです。ところが幸いなことに、このツアーは先の理由からサウンドボードにまったくひけをとらないウルトラ・オーディエンスがゴロゴロしているという幸せな時期。そんな中でも二大巨頭と呼んで過言ではない名録音が10月10日のボストンと8日のニューヨーク・パラディアム。前者は永遠の名作『BOSTON 1976 DEFINITIVE EDITION』が遂に売り切れてしまったのも記憶に新しいところですが、8日に関しては2020年に『PALLADIUM 1976』がリリースされるやいなや、あまりの高音質ぶりからあっという間に売り切れてしまったのでした。「これが本当に1976年のオーディエンス録音なの?」と耳を疑いたくなるほどずば抜けた音質の良さ。おまけに2ndジェネという状態だとは思えないほど抜群の鮮度。これほどのクオリティを誇る音源だけに『EMOTIONAL THE CRAB』のようなリリース実績もありましたが、そこではライブ序盤におけるハマー達のパートがカットされた不完全版かつジェネ落ちという二重苦を抱えた状態ながらも音質の良さゆえに好評を博したという。まだアナハイムの頃は「まず僕たちが最初に演奏して、後でベックが登場してくれます」とハマー自身が開演前に説明していたものですが、パラディアムの10月にもなるとそうした説明など必要とせず自信たっぷりに自分たちのセットを始めており、客席からもベックを求めるような声が飛び交っていないほど。だからこそ彼らのパートを含めた完全収録は76年アイテムの必須条件と言えるでしょう。何よりこの日はハマーのアルバム『LIKE CHILDREN』の最後を締めくくったバラード「Giving In Gently/I Wonder」が歌われた(何気にいい声してる)貴重な場面まで捉えてくれている。同曲にはギターソロが盛り込まれていたことから、本来であればベックにも参加してもらいたかったところですが、あいにく彼の登場前のパートであったことから、ここは代わりにハマーがシンセのソロをたっぷりと弾いています。場数を踏んで自信たっぷりにステージをこなしてきた彼らだけのことはあり、パラディアムは既に大盛り上がり。その激アツな臨場感が超リアルに捉えられている様など、オフィシャル『ライブ・ワイアード』すら相手にならないほどの再現力。そして「Darkness, Earth In Search Of A Sun」が5分を過ぎたところでストラトを持ったベックが登場するやいなや大歓声が飛び交う。この凄まじい盛り上がりを前にベックは早くもエンジン全開となり「Goodbye Pork Pie Hat」にて最初の頂点を迎えます。インプロ志向のヤン・ハマー・グループとフレーズ志向のベックという組み合わせは相性抜群で、もはや単なるフュージョンの枠をはみ出た独特の親しみやすい音楽へと昇格。それもまた極上音源が居並ぶ76年ツアー・アイテム人気の秘訣。また「Scatterbrain」や「She’s A Woman」といった『BLOW BY BLOW』収録曲は非常に陽気なアレンジへと進化しており、これもまた76年ツアーの親しみやすさに一役買っている。そうしたポジティブな要素が合わさって、この日のベックの振り切れた絶好調ぶりは本当に凄い。よほど気持ちよく弾けていたのでしょう、このメンツで演奏される訳のない「Rice Pudding」をほのめかしてみせるなど余裕たっぷり。極めつけはライブを終えたところで観客に向かってベックが放ったお礼の言葉。これが『ライブ・ワイアード』では「God bless you, thank you」というありふれたものでしたが、パラディアムでは「ワンダフル!ワ・ン・ダ・フ・ル」という心からの感謝ぶりで、まるで彼の笑みが浮かぶかのよう。これほど充実の演奏を完璧な音質で捉えた名録音ですので、ストレートな再発でもよかったかもしれません。しかしそこは単に売り切れたというだけでなく、ベック亡き後に待ち望まれている再登場です、改めて音源を見直しました。そこで今回はフェルナンド・サーンダースのベース域を最新のテクノロジーにて調整した結果、ただでさえクリアネスと鮮度に長けた録音の見晴らしがさらに良くなるアッパー版へと進化。ボストンと並ぶ1976年ツアー最強のオーディエンス録音が文字通りディフィニティブな形で再登場と相成りました。一枚もの『ライブ・ワイアード』では物足りないマニアだけでなく、ベックの1970年代オーディエンス・アルバム入門として最高の教科書になりうる一枚。(リマスター・メモ)★低音、特にベースの低音弦がモコッてる印象を軽減しました。軽減して減圧した音圧分を均等に持ち上げたので全体が鮮明な印象になってます。Live at Palladium, New York City, NY, USA 8th October 1976 ULTIMATE SOUND(UPGRADE) Disc 1 (77:41) 1. Intro 2. Magical Dog 3. Evolove 4. Givig In Gently / I Wonder 5. Oh Yeah 6. Band Introductions 7. Darkness / Earth in Search of a Sun 8. You Know What I Mean 9. Freeway Jam 10. Goodbye Pork Pie Hat 11. Earth (Still Our Only Home) 12. Scatterbrain 13. Come Dancing Disc 2 (34:49) 1. She's a Woman 2. Diamond Dust 3. Rice Pudding Intro 4. Full Moon Boogie 5. Blue Wind 6. Led Boots Jeff Beck - Guitar Jan Hammer - Keyboards, Vocal Tony Smith - Drums, Vocal Fernando Saunders - Bass Steven Kindler - Violin