リリースされた『DEFINITIVE PALLADIUM 1976』の続きとしてこの文章を読んでいただけますでしょうか。ジェフ・ベックとヤン・ハマー・グループによる1976年ツアーは『ライブ・ワイアード』というオフィシャルが存在するものの、サウンドボードで一公演をコンプリートで再現してくれる音源というのはオフィシャルどころか流出すら起きてない。しかし幸いなことに、このツアーは1976年のオーディエンス録音としては最高級レベル、いや、それどころか2023年の今なお立派に通用するほど驚異的なクオリティの音源が多く存在している。そうした76年ツアーのハイレベル・レコーディング群の中でも二大巨頭となる絶大なる存在が10月のニューヨーク・パラディアムとボストン・ミュージック・ホール。だからこそパラディアムは先週『DEFINITIVE PALLADIUM 1976』として待望のアッパー版かつ再リリースが実現した訳ですが、ボストンの方はと言えば『BOSTON 1976 DEFINITIVE EDITION』が文字通りのロングセラーと化していた。そんな定番も1月のベックの訃報をきっかけとして遂にSold Out。パラディアムの場合は数年前から再リリースが待ち望まれていたタイトルであったのに対し、ボストンの方はSold Outしたばかり。それでもなおこうした新たなバージョン、それもアルティメイトとして登場するのは、76年の二大巨頭はどちらも常にベック・オーディエンス録音の入門編として安定供給されてしかるべき音源であるということに他ならない。それがベック亡き後となってはなおさら。そんな76年ボストンは衝撃的なほどのクオリティゆえ、21世紀を迎えてからリリースが白熱した音源でもあります。それこそ『WIRELESS』、『WIRED UP 1976』、そして『LIVE AT BOSTON 1976』といった名盤が矢継ぎ早に生み出された訳ですが、そうした混乱状態に終止符を打つべくリリースされた文字通りのデフィニティブなバージョンが『BOSTON 1976 DEFINITIVE EDITION』だった訳です。現在まで続く「DEFINITIVE」を冠したタイトルの先駆けでもありました。しかし『BOSTON 1976 DEFINITIVE EDITION』(以下“既発盤”と称します)にも欠点がなかった訳ではなく、まず何と言っても「Darkness (Earth In Search Of A Sun)」の4:44で混入してしまった「ジャリッ」というデジノイズ。これが既発盤における最大の欠点であったことは疑いようがありません。もう一つは「Blue Wind」の序盤で起きていたテープ劣化による音のコモリと左チャンネルの劣化から生じたふらつき。そこで今回は「GRAF ZEPPELIN」の監修によって、2009年の既発盤リリース時に使用したマスターを使用することを避け、今回はその後に出回った状態の良いバージョンを元にすることと相成りました。つまり元は同じ音源ですので「枝分かれ」コピーということになるのですが、これを採用することで先に挙げた問題をすべて解決。特に「Darkness (Earth In Search Of A Sun)」は本音源のずば抜けた音の良さを象徴する一曲でもありましたので、あのノイズは痛恨の極み。今回はそんなノイズもなく完全な状態での収録を実現。 そもそも既発盤は2009年当時のテクノロジーを駆使したトランスファーでしたが、それから数年経過した今回のバージョンの方が同じナチュラルな状態でもさらに音源が持つ本来の音の良さを出し切った感があり、今となっては既発盤が線の細いこじんまりとした音に映ることでしょう。そして散見されたカット個所なども最小限に留めるなど、これもまた「GRAF ZEPPELIN」ならではの行き届いたオーバーホールの賜物。またパラディアムと今回のボストンは間にフィラデルフィア公演を挟んだ近い時期のステージの記録でもあったのですが、それでいて演奏内容や雰囲気がまるで違うのが絶頂期ツアーならでは。普通ですと近い公演同士ならば完成度が高くとも雰囲気が似るのは当然の事。ところがパラディアムとはまるで別のライブのごとし。共通するのはどちらもベックが絶好調かつご機嫌ということでしょう。彼としても前年の名音源であった『DEFINITIVE BOSTON 1975』と同じ会場に凱旋を果たしたことが念頭にあったのでしょう。「大好きなボストンに戻って来れてうれしいよ」と観客に向けて発したのを始めとして、この日はベックがやたらと饒舌に語り掛けるのが面白い。例えば「Come Dancing」を終えた後におどけて曲を紹介してみせたかと思えば、このツアーならではのレゲエ・アレンジが盛り上がった「She's a Woman」にも気を良くして「みんなレゲエ好きなんだね?フーッ!」と語りかけたほど。楽しそう。実際ベックのプレイは非常にアグレッシブでして、自身のパート最初の曲である「You Know What I Mean」からしてグイグイと弾きまくっている。おまけにヤン・ハマー・グループのパートはパラディアムと選曲が大幅に異なっており、「Stepping Tones / Drum Solo / Awakening」を披露。彼らのインタープレイをお望みの方には願ってもない選曲かと。そしてご機嫌な臨場感と時の流れをまったく感じさせない驚異的な鮮度が魅力だったパラディアムに対し、「まるでサウンドボード」と形容されるべき衝撃的な音像の迫力は今なお色褪せない。そんな76年ツアー二大巨頭の片割れボストンも単なる再発を超えて「GRAF ZEPPELIN」監修によって生まれ変わりました!(リマスター・メモ)★位相修正★低域は前回盤より伸びてます(*むやみやたらなブースト処理はしてない)。★16khz付近の高周波ノイズ除去★"Darkness" 前回盤にあった5:01付近でのデジノイズなし★"Blue Wind" の中盤迄で頻発していた左チャンネルの不安定な問題は解消 Live at Music Hall, Boston, MA, USA 10th October 1976 ULTIMATE SOUND(UPGRADE)★76年ツアー・ベスト Disc 1 (64:20) 1. Intro & Tuning 2. Magical Dog 3. Evolove 4. One To One 5. Stepping Tones / Drum Solo / Awakening 6. Band Introduction ★0:06クロスフェード 7. Darkness (Earth In Search Of A Sun) 8. You Know What I Mean 9. Freeway Jam 10. Goodbye Pork Pie Hat Disc 2 (62:28) 1. Earth (Still Our Only Home) 2. Scatterbrain 3. Come Dancing 4. She's A Woman 5. Diamond Dust ★7:00(演奏後曲間)クロスフェード 6. Full Moon Boogie 7. Blue Wind incl. Train Kept A Rollin' Jeff Beck - Guitar Jan Hammer - Keyboards & Vocal Steve Kindler - Violin Fernando Saunders - Bass Tony Smith - Drums & Vocal