リマスター技術が確立されていなかった1980年に作られたCDが現在は再評価されるようになり、モノによっては高値を呼ぶ事態にまで発展しています。そもそも当時はリマスターという概念すらなく、ただマスターテープをそのままCD化してしまうという事も珍しくありませんでした。それが今となってはフラット・トランスファーな状態でCD化されていたということになり、マニアの間に再評価の機運が生まれることになったのです。ザ・バンドのような大物でもこうした現象は例外でなく、それどころか2000年までアルバムのリマスターが実現しなかったという。90年代後半にはリマスターされていないのに「リマスター」という但し書きの付いた紙ジャケ国内盤がリリースされていたほど。こうしたザ・バンドのCD黎明期アイテムの中でも最近マニアの間で再評価されているのが1989年に黒い帯でリリースされた「PASTMASTERS」盤。この規格でリリースされたバンドのアルバムはどれもフラット・トランスファー丸出しな音でして、リマスターされて現在までCDや配信の基準となっている2000年のバージョンとはまるで音質が違う。名盤『MUSIC FROM BIG PINK』の「PASTMASTERS」盤に関しても同じことが言え、オープニングの「Tears Of Rage」からして現行アイテムとはまったく違った音質が聞こえてきます。中でもリヴォン・ヘルムのドラムの音色は非常に自然かつ大きく鳴り響いており、現行のリマスターを聞きなれた耳には実にナチュラルな質感に映ることでしょう。もっとも現行の2000年リマスターの仕上がりも素晴らしいもので、その優等生的な仕上がりを愛聴している向きがおられるのも当然かと。しかし2000年リマスターの「Chest Fever」などは「PASTMASTERS」盤と聞き比べてみると濁った音像に映ってしまう感も否めず、すっきりナチュラルな「PASTMASTERS」盤に軍配が上がるかもしれません。またアルバムを締めくくる「I Shall Be Released」も非常に繊細に響き渡る「PASTMASTERS」盤の質感は大いに魅力的。いずれにせよ現行のバージョンとはまったく感触の違う『MUSIC FROM BIG PINK』が楽しめることは間違いなく、その分かりやすいほどにフラットな味わいを本CDにてお試しください。Taken from the Japanese Pressing CD (Capitol Records CP21-6027, pressed in 1989) 1. Tears Of Rage 2. To Kingdom Come 3. In A Station 4. Caledonia Mission 5. The Weight 6. We Can Talk 7, Long Black Veil 8, Chest Fever 9, Lonesome Suzie 10. This Wheel's On Fire 11. I Shall Be Released