アルゼンチン・タンゴの革新者、偉大なるピアソラ亡き後最も先鋭的なバンドネオン奏者として、ECMを中心に活躍を続けるディノ・サルーシの初期から中期に掛けての傑作「ワンス・アポン・ア・タイムーファー・アウェイ・イン・ザ・サウス」録音メンバーのパレ・ミッケルボルグとチャーリー・ヘイデンとのトリオでの幻想的で美しいライヴが登場!!!ECMを中心に沢山の傑作を発表していますが、サルーシの初期から中期に掛けての代表作が1985年に発表した「ワンス・アポン・ア・タイムーファー・アウェイ・イン・ザ・サウス」で、レコーディング・メンバーはサルーシに、トランペットのパレ・ミッケルボルグ、ベースのチャーリー・ヘイデン、ドラムス/パーカッションのピエール・ファーヴルのカルテット編成だった。しかしECM特有の其々が一国の主たるミュージシャンの組み合わせのため、長く皆のスケジュールを合わせることは不可能で当然ツアーなどはブッキング出来ないことが多い。ECMにライヴ作品が少ないことの一因ともなっている?そんななか、ファーヴルを除く3者が顔を揃えおこなわれた1987年7月23日ノルウェー・モルデに於けるモルデジャズでの超稀少なライヴを、レーベル独自の丁寧なマスタリングを施した極上高音質ステレオ・サウンドボードで捉えた奇跡のアイテムが入荷しました!!!一般にバンドネオンと言えばまずはタンゴに使われる楽器ですが、タンゴを元にクラシックやジャズの要素を融合させた独自の演奏形態を産み出したのがアストル・ピアソラ。そのバンドネオンを用いて、ピアソラ以上にフラメンコのパコ・デ・ルシアの如く他ジャンルとの共演を積極的に行っているのがサルーシです。またサルーシ同様にピアソラに影響を受けたバンドネオン奏者は沢山いますが、その殆どというか皆がピアソラの延長線上にあるだけで、それだったらピアソラを聴けば済む話となってしまうのですが、サルーシだけはピアソラとは違うアプローチで独自の世界を切り拓いているところが、他のバンドネオン奏者と一線を画する存在感と高い評価を得ている。サルーシは、ピアソラのようなエネギルッシュでパッショネイトな音とパーカッシヴなリズムを打ち出して行くスタイルとは対極にある、ピアソラ同様にタンゴの枠を超えながらもより内省的で幻想的で美しく無国籍なサウンドが特徴的な懐の深い演奏が…そう無国籍でジャンルレスな、とてもECM的なのです。例えば本公演中に制作を始めていた1988年録音のアルバム「アンディーナ」からの3曲が、ジャン=リュック・ゴダールの映画「ヌーヴェルヴァーグ」に使われたり、1990年当時タンゴに傾倒していたアル・ディ・メオラのユニット「ワールド・シンフォニア」でのサウンドの要となる活躍など、あらゆるジャンルのマスターからファースト・コールを請われるように、サルーシ以外では成り立つことのない独特の世界を常に展開しているのです。本公演でも、サルーシの哀愁漂う抒情的な夢見心地なバンドネオンが、まるで時間が止まってしまったように緩やかな曲線を描き出し、この2年後には帝王マイルス・デイヴィスの「オーラ」を作り上げるミッケルボルグの、感情を抑制した深い哀しみのような感触を持った、北欧的な切ないメロディーと寂しげな音色のトランペットが知らぬ間に心の奥深くまで入り込み、一聴して判るヘイデンの硬質なベースがいつも通りの安定感でギュッと演奏を引き締める役割を担い、それぞれの個性は貫きながらも決して一人相撲は取らず、3者の描くトライアングルによる鼎談が静かに進行して行く…これからの季節特有の夕暮れ時の寂寥感のような、儚さの美学に貫かれたとてもECMらしい芸術性を孕んだ革新的な名演奏を聴ける歓びを、一人でも多くの方に味わって頂きたい…