ストーンズ70年代ライブの中にあって音源には恵まれない印象ながらも素晴らしい演奏内容と魅力的なセットリストによってマニアに高い人気を誇る1970年のヨーロッパツアー。その魅力を古くから伝えてくれたオーディエンス定番のラバーダバー名盤の復刻『EUROPEAN TOUR LIVE 1970』大ヒットも記憶に新しいところですが、本ツアーから唯一のサウンドボードとしてやはり昔から親しまれてきたのがパリ公演このツアーにおいてパリでは都合三回のステージが行われましたが、その中日である9月23日のショーがフランスのラジオ局から放送されたのです。結果としてモノラルながら本ツアーを記録した大変貴重なサウンドボード録音が残されることになりました とはいえラジオ放送されたにもかかわらず本音源がLP時代にリリースされることはなく、その存在が明らかになったのは1993年のGrey Sealというレーベルからリリースされた『PARIS 1970』。今となってはジャケが冴えなさの極地(笑)だったにもかかわらず、さすがに70ヨーロッパのサウンドボードという事で速めの完売を記録。しかし多くのマニアにとっては状態の良いテープを使用したVGPレーベルの『SOME LIKE IT HOT!』で慣れ親しんだサウンドボードであったはず。実際VGP盤はベストセラーに次ぐベストセラーとなり、単なる重版ではなく『SHAKE YOUR HIPS』といった亜種タイトルも含めリリースを繰り返すごと徐々に音質にも調整が加えられていきました。それほどVGP盤の存在は絶大で、その後に現れた本放送を収録したタイトルがことごとくVGP盤のコピーであったことからもその優秀さが伺えたのです。もっともVGP盤にも見過ごせない問題があり、それは「Stray Cat Blues」、「Little Queenie」そして「Brown Sugar」において「ピー」という謎の電子音が紛れ込んでしまったことでしょう。元祖Grey Seal盤にこのようなノイズが一切なかったことからも、この問題は痛恨の極みでした。そもそもヨーロッパ70年最大の定番音源でありながら、そうした問題を抱えたVGP盤を超えるアイテムが現在に至るまで登場しなかったというのも不思議 確かに元が1970年当時の放送をエアチェックしたテープが元ですので、ビンテージ感を漂わせたサウンドボードであったことも新たなバージョンが登場しない要因だったのかもしれません。また本エアチェックはラスト二曲が録音されておらず、そこは一聴してラジオのスピーカーから音を拾ったのだと分かる音質が劣るエアチェック音源で補われていたこともまた原因の一つだったのでは。スピーカーからの出音を上げて録音したが故に、音の強弱がはっきりしているサウンドボードが見事に歪んでしまったのでした。そんな定番音源の放置プレーに立ち上がったのが「GRAF ZEPPELIN」。これまで長期政権を築いてきたVGPリリース群や以降のコピー盤ではなく、あえて元素材に遡っての音源レストアを敢行してくれたのです。そもそもがビンテージ・エアチェックだった訳ですが、それでもVGPは当時の風潮を反映して各エディションが大なり小なりイコライズを施して癖のある仕上がりを見せていたのに対し、今回はナチュラルで素朴なAMラジオ感をそのままに収録。またVGP盤が目立たなくさせていたカット個所なども余計な編集を加えることなく収録したことで、これがあまたのVGPコピー盤とは一線を画すリリースであることを実感してもらえるはず。またVGP盤では攻め切れていなかったピッチの狂いもより正確な状態で収録されており、それはライブ後半の「Brown Sugar」において顕著。さらには音質が落ちるスピーカー録音の二曲もピッチをしっかりアジャスト。そして何よりも!各VGPバージョンにおける汚点だった例の電子音が一切なく、ここでも上位マスターを使用していることを実感していただけるかと。こうして古くからの定番AMラジオ放送サウンドボードを「GRAF ZEPPELIN」が徹底的にレストア。最後には1990年代に入って部分的に再放送された曲もボーナスに収録。「Sympathy For The Devil」は4分を過ぎたところでナレーションからの終了が惜しまれますが、幸いにも「Brown Sugar」の方はコンプリ。音質的には当然エアチェックを上回る訳ですが、これを聞けば元々がビンテージ感を漂わせたモノラル録音であることがよく解ります。そして何と言っても前年のダークなサウンドから一転して明るく勢いのあるサウンドへと進化した70年ツアーならではのサウンドがサウンドボードで楽しめるのは大きな魅力。アコセット二曲がパリ到達前にセトリから落とされてしまったせいで、これまた前年から一転して明るい雰囲気で演奏されたアコ二曲がサウンドボードで記録されなかったのは惜しまれますが、それでもホーン隊を加え、さらにはリリース前の新曲まで加えてすっかり『STICKY FINGERS』モードへと進化した70年のストーンズをサウンドボードで聞けるのは格別。中でも「Brown Sugar」のスピーディな演奏ぶりは71年以降のレギュラー演奏や喧騒の中でのライブ初演だったオルタモントともまるで違う独特な勢いがサウンドボードだとさらにリアルに感じられ、しかも電子音なしのクリーンサウンド。そして何と言っても70年ツアーを代表するレパートリー「Roll Over Beethoven」のカッコよさと言ったら!今も昔も70年ツアー唯一のサウンドボードであるパリ二日目が「GRAF ZEPPELIN」によって見事なアップグレードを果たしました リマスター・メモ '70年の定番音源の最新リマスター!AMラジオっぽい質感で、ヒスは既存盤のVGPなど並みに結構あり、低域もかなり出てますが、ここでは全体のバランスを見直し低域はいくぶん抑えめに、既発で出過ぎな中域もそれなり補正されています。素朴なAMラジオサウンドと言った趣です。終盤HonkyとSFMが音の劣る音源(恐らく元々Aud音源に聞こえますが?)なのは変わらず。既発は全体にピッチ高め 今回盤ではピッチをそこそこ修正。VGPやGold Plateで聞かれた電子音ノイズなし Midnight Ramblerの出だしなどはVGPよりも立ち上がりが早かったりします。Stray Cat Blues 4:06付近の曲間カットもVGPではクロス掛かってますが、ここではカットのママ 所々で散見された微妙な音ヨレ(回転ムラ)もなるべく補正Palais des Sports, Paris, France 23rd September 1970 SBD(UPGRADE (72:22) 01. Jumping Jack Flash 02. Roll Over Beethoven 03. Sympathy For The Devil 04. Stray Cat Blues 05. Love In Vain 06. Dead Flowers 07. Midnight Rambler 08. Live With Me 09. Let It Rock 10. Little Queenie 11. Brown Sugar 12. Honky Tonk Women 13. Street Fighting Man Bonus Tracks: Rebroadcast Version 14. Sympathy For The Devil 15. Brown Sugar SOUNDBOARD RECORDING