初期ウイングスの映像と言えばベスト・バージョンのリリースが実現する1973年の「JAMES PAUL McCARTNEY」TVショーな訳ですが、それと双璧を成すもう一つの映像がテレビ用映画として作られていた「THE BRUCE McMOUSE SHOW」。”JPM”とは対照的にこちらは72年のヨーロッパ・ツアーの模様を収めたライブ映像であり、既に「BAND ON THE RUN」リリース直後に行われたローリング・ストーン誌のインタビューにおいて、ポール自身がそれを制作中であること、さらにはインタビュー中に「THE BRUCE McMOUSE SHOW」のラッシュ映像を見るべく席を離れた様子までレポートされていました。1970年代初頭はロックコンサートのステージをどのように映画化すればいいのか?という点において試行錯誤の時代と言え、その最たる例がレッド・ツェッペリンの映画「永遠の詩」でしょう。メンバーそれぞれのイメージ・シーンが盛り込まれ、さらにはマネージャーですらマフィアを演じてみたりといった具合にライブ・シーン以外にもテーマを盛り込もうとしていた苦肉の策が伺われます。そうした試行錯誤は「THE BRUCE McMOUSE SHOW」に関しても同様で、こちらもライブ映像以外のテーマが組み込まれた作りとなっています。そこは家庭人のポールらしく、ウイングスが演奏するステージの下で巣を作って暮らすネズミとの絡みという微笑ましいテーマ。この映画や「永遠の詩」が物語っているように、70年代前半はコンサートだけを映し出す映画は難しいと思われていたのでした。しかし、ポールも76年になるとそうした演出抜きの純然たるコンサート映画「ROCKSHOW」を企画するのです。そんな「THE BRUCE McMOUSE SHOW」は先のような製作がリアルタイムで報じられてはいたものの、最終的に完成したのは1977年だとされています。これほどまでに完成が遅れ、なおかつ公開が実現しなかった原因としては、映画の収録から半年後にオリジナル・ウイングス二人のメンバーが脱退してしまったという事情が大きかったのではと推測されます。先のインタビューでもポールはメンバーの脱退に触れており、それが映画製作の出鼻をくじかれてしまった感が否めません。おまけに完成した頃と言えば、新たなラインナップのウイングスが大成功を収めた時期。いずれにせよ完成した映像はお蔵入りの憂き目をみてしまいます。現在リリースされている映像が証明したように、この映画はライブとネズミのアニメが交互に映るだけでなく、オリジナル・ウイングスのメンバーがアニメのネズミと絡むという手の込んだ演出が組み込まれていた。そうした手間と費用のかかった映像がようやく垣間見られたのは、あの懐かしいVHS「ポール・マッカートニー・スペシャル(ポートレイト)」。そこに「Wild Life」と「Hi, Hi, Hi」の演奏シーンが流用され、マニアはこれが幻の「THE BRUCE McMOUSE SHOW」かと唸らされたもの。ところが「THE BRUCE McMOUSE SHOW」本体に関してはその後も「WINGSPAN」で小出しされた程度で全貌が明らかになる兆しがなく、ウイングスの聖杯たるこの映像が「RED ROSE SPEEDWAY」スーパーデラックス・エディションにてようやくリリースされたのは記憶に新しいところ。元が映画用のフィルムで撮影されていたことに加え、現在のテクノロジーでリリースされた画質は鮮烈。ようやく見られるようになった本映像を見てみると、一曲の演奏シーンに複数公演の映像をミックス(ポールのステージ衣装がコロコロ変わる)させるだけに飽き足らず、いくつかの曲では翌年に入って追加撮影されたショットが挿入されるという仕上がりにも驚かされたもの。ステージで撮影された映像だけでは物足りず、後日ステージ・ショットの追加収録が行われたという点でも「永遠の詩」と相通じるものがあるでしょう。こと「THE BRUCE McMOUSE SHOW」ではリアルステージ映像と追加撮影では服装が一緒でもポールの髪型が違うことから粗が判りやすかった。こうした点もロックライブ映画の創成期ならではだったのですが、それでもなお初期ウイングスのステージをこれほどまで鮮明な映像で捉えた価値は計り知れない。となれば、あのネズミのアニメとの絡みのシーンはいらないから、ウイングスの演奏シーンだけを見たい。さらにはスーパーデラックスの敷居が高くてまだ映像を見ていない…という方が少なくないかと。そこで今回リリースされるのが「THE BRUCE McMOUSE SHOW」から例のアニメを取り除き、なおかつ72年ヨーロッパ・ツアーの曲順に再構築してみせたライブ・ビデオとなるのです。「永遠の詩」にも正しい曲順に直した“ファン・エディション”が登場したことが記憶に新しいところですが、今回はまさにそのウイングスバージョンといったところ。もっとも、アニメをカットして曲順を並べ替えるだけなら大した作業ではない。そこは限定プレスDVDのリリースに足る内容とすべく、緻密な作業を行いました。コンセプトとしては72年ライブの再現ですので、アニメはもちろん演奏シーンの冒頭に登場する「Big Barn Bed」の演奏シーンをカット。同曲のシーンは例の追加撮影の際にリリース前のアルバム音源を使って口パク収録された(公開時に最新曲を含めたいという狙いもあったのでしょう)ものですので除外対象でした。さらに元の映像で完全にアニメのBGM扱いだったオープニングのインストゥルメンタルには他の曲の演奏シーンを巧みにコラージュ。先にも触れたように、そもそもリアルライブ映像と追加撮影のコラージュが激しい映像(演奏の中でポールの髪の長さが変化したりする笑)ですので、これも違和感がまったくない。「Eat At Home」でもいくつかのアニメ・シーンに演奏場面をパッチ。そしてオープニングから「Bip Bop」までは、あのゴージャスな「WINGS 1971-1973」ボックスの特典で実質的に「 THE BRUCE McMOUSE SHOW 」サントラの役割を果たしていたCDの音声をシンクロさせることで、演奏中にも入ってしまったネズミの台詞を消し去り、純粋に演奏が聞き込める状態へとバージョンアップ。とどめに「Big Barn Bed」と同様の追加撮影の際に収録されたリンダの「Seaside Woman」のシーンも例のCDからのライブテイクをアフレコさせ、スタジオテイクの口パク映像をもっとリアルな状態へと進化させたのです。既に追加撮影時には”JPM”も進行していて、さらには続くUKツアーの準備もあったはず。そんな中でわざわざ前年の衣装を着て撮影しているのが涙ぐましい。こうした念入りな作業によって、ただでさえ貴重なオリジナル・ウイングスのライブ映像がより実際のツアーやステージに近い雰囲気で楽しめるようになったのが今回のリリースの大きな魅力。定番「JAMES PAUL McCARTNEY」と双璧を成す初期ウイングスの貴重な高画質プロショット映像が誕生です! Evenementenhal Martinihal, Groningen, Netherlands 19th August 1972 Nederlands Congresgebouw, The Hague, Netherlands 21st August 1972 Cinema Roma, Antwerp, Belgium 22nd August 1972 Deutschlandhalle, Berlin, Germany 24th August 1972 1. Instrumental 2. Eat At Home 3. Bip Bop 4. Blue Moon Of Kentucky 5. The Mess 6. I Am Your Singer 7. Seaside Woman 8. Wild Life 9. My Love 10. Mary Had A Little Lamb 11. Maybe I'm Amazed 12. Hi, Hi, Hi 13. Long Tall Sally PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.42min.