イゴール・コロシェフ&ビリー・シャーウッドという若き血を取り込んだ“6人YES”の極上ライヴ・イン・ジャパンが登場です。注目の中身の前に、まずは当時をちょっと思い出していただきましょう。1995年に“黄金の5人”で再結成したYESでしたが、『KEYS TO ASCENSION』の元になったサンルイスオビスポ3公演(1996年3月)とスタジオワークだけでツアーをすることなくリック・ウェイクマンが脱退。ビリー・シャーウッドを迎えて『OPEN YOUR EYES』を制作、さらにアルバムにゲスト参加していたイゴール・コロシェフも加入させ、ツアーにこぎつけました。こうしてYES史でも珍しい“6人YES”が誕生したわけですが、このツアーは単にアルバム『OPEN YOUR EYES』の販促だけでなく、結成30周年も記念する大々的なツアーとなりました。ここで、“OPEN YOUR EYES AND 30TH ANNIVERSARY TOUR”の概要も確認してみましょう。 ・1997年10月-12月:北米ツアー#1(43公演)・1998年2月-4月:欧州ツアー(46公演)・1998年5月:中南米ツアー(13公演)・1998年6月-8月:北米ツアー#2(41公演)・1998年10月:日本ツアー(5公演) このように、丸1年で19ヵ国148公演を巡ったわけですが、日本はその最終公演地になりました。この6人は、のちに後期の名作『THE LADDER』を創り上げるほどに見事なバンド・ポテンシャルを秘めていたわけですが、残念ながら来日は1回限りでした。ここで、その日程を確認してみましょう。 ・10月8日:渋谷公会堂・10月9日:渋谷公会堂・10月11日:川口総合文化センター 【本作】・10月13日:名古屋市公会堂・10月14日:大阪厚生年金会館 これが“OPEN YOUR EYES JAPAN TOUR 1998”の全容。本作は、その3公演目にあたる「1998年10月11日:川口リリア公演」のオーディエンス・アルバムです。本作は『AND YOU AND SAITAMA』としてリリースされ、大評判を呼んだ録音。録音家本人から直接譲られたオリジナルDATに収録されていたのは、まさに“美録音”と呼ぶに相応しいもの。正直なところ、「まるでサウンドボードと呼ぶタイプではない」のですが、これは批判ではなく賞賛。楽音のクリアさ、太さ、詳細ぶりはライン録音にも匹敵するのですが、わずかに会場音響をまとったサウンドはまさに天から降るよう。何度も書いてきたことですが、本作を聴いていると、本当にYESミュージックにはオーディエンス録音が似合う。 とは言え、(当然のことながら)オーディエンス録音なら何でも良いというわけではない。籠もりや濁りがあれば台無しですし、美音であっても観客の大騒ぎにまみれたら意味がない。その点でも本作は満点。一挙手一投足に目を凝らし、一音残らず脳裏に刻みつけんとばかりに耳を澄ます日本の観客は、演奏中に静寂を守りきる。無音のオーディエンスはいないも同然かと思いきや、そうではない。曲間に会場を舐めるように広がる大喝采のスペクタクルもありますが、演奏中にも無言の集中力が感じられる。もちろん、無言ですから“音”では分からないのですが、その熱い視線と気配は間違いなくステージに届いており、メンバー達の演奏を引き締めている。キリッとした演奏を楽しみながら、衣擦れも許さないようなムード。そこに降り注ぐYESミュージック……。「YESは客録が似合う」と書きましたが、世界広しと言えど、その旨みを最大限に引き出すのは、やはり日本しかあり得ません。そんな超・美麗サウンドで描かれる本作は、若き血を得たフレッシュなYES。30周年ということもあってか、新作『OPEN YOUR EYES』からはタイトル・トラックだけが演奏され、ほとんどはクラシックYESの名曲群で埋め尽くされている。しかし、そこに注ぎ込まれるイゴール&ビリーがえらく新鮮。すでに世界中を巡ってきただけにアンサンブルもこなれており、YESの伝統を尊重したオリジナル・フレーズ通りの演奏を聴かせつつも、当時勃興していたネオプログレ的な音色を要所に混ぜ、よりカラフルに彩っている。楽曲はオリジナル通りでありながら新鮮で、その上で80年代のような安っぽい音でもない。そんな絶妙なバランスのショウなのです。イゴールはツアー中にセクハラ事件を起こしてクビになってしまうわけですが、その後のYESはキーボード奏者に苦心。今に至るまでイゴールを超える巧者には恵まれていません。まったく、余計なことをしないで演奏にだけ集中していれば良かったものを……。閑話休題。本作は、セットリストも面白い。このメンバーでは公式にも『HOUSE OF YES: LIVE FROM HOUSE OF BLUES』を残していますが、本作とのダブリは5曲だけで大半が被っていない。しかも、その中身も濃く、『危機』の全曲や「Heart Of The Sunrise」「Long Distance Runaround」といった往年の代表曲に加え、「Wonderous Stories」「Tempus Fugit」等の意外で美味しい曲も披露。さらにスティーヴ・ハウのソロコーナーでは「The Little Galliard」「Mood For A Day」「Ram」「Clap」と、4曲も畳みかける大盤振る舞いなのです。一度だけ実現したイゴール&ビリーとの来日公演。その全貌をクリアでスケール感いっぱいの極上オーディエンス録音で捉えきった1本です。90年代の名作『THE LADDER』を創り上げる直前のバンド・ポテンシャルが輝き、オフィシャル作品では聴けない名曲もたっぷりと吸い込んだ名録音。 Live at Kawaguchi Lilia Main Hall, Kawaguchi, Japan 11th October 1998 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters) Disc 1(78:37) 1. Firebird Suite 2. Siberian Khatru 3. Rhythm Of Love 4. Yours Is No Disgrace 5. Open Your Eyes 6. And You And I 7. Heart Of The Sunrise 8. The Little Galliard 9. Mood For A Day 10. Ram 11. Clap Disc 2(69:53) 1. Akatombo 2. Wonderous Stories 3. Long Distance Runaround 4. Whitefish 5. Tempus Fugit 6. Drum Solo 7. Bass & Drum Solo 8. Owner Of A Lonely Heart 9. Close To The Edge 10. I've Seen All Good People 11. Roundabout Jon Anderson - Vocal Steve Howe - Guitar Chris Squire - Bass Alan White – Drum Billy Sherwood - Guitar, Keyboard Igor Khoroshev – Keyboard