近年希に見るほどの“音源異常事態”となった最新YESの来日公演。今週をもって全日程の頂上録音が出揃いましたが、さらにダメ押しとなる極上イヤー・イン・モニター(IEM)アルバムが登場です。すでに常識化している「IEM」ですが、一応おさらいから始めましょう。「今さら……」と思われる方は軽く読み飛ばしをお願いします。ステージ上のミュージシャンは、曲やショウの進行を把握するために自分専用の音を聴いて演奏しています。主に無線で飛ばした音声をイヤホンで聴くのですが、それを現場で傍受して録音したものがIEMなのです。PAを通さないサウンド卓音だけにライン録音級に超ビビッドでダイレクト。その鮮やかさ、演奏の詳細ぶりはオーディエンス録音はおろか、公式ライヴ盤さえも遙かに凌駕しており、非常に人気があります。しかし、良い点ばかりではない。観客に聴かせることが目的ではないため、ほとんどの場合はミックスが異様。入りを掴むためにリズムだけが強調されていたり、コーラスの音程を把握するためにヴォーカルだけ大きかったり。パートによっては、観客には聞こえないクリック音が入ることもあります。必要なパートに必要な音を提供する“実務用”のサウンドでして、音質面でも鳴りや美しさは二の次になりがち。そもそも傍受環境によっては途切れ途切れになることも珍しくありません。そんな特性のため、通常はオーディエンス録音とマトリクスし、客録にエッジを加える“材料”となるのが一般的なのです。そんなIEMですが、ごくごく希に音楽作品として楽しめる次元のものもある。そんな稀少が本作なのです。本作に収められているのは、最新YES来日公演のうち、初日・2日目・最終日をフル収録したもの。いつもなら1回分をフルで聴けるだけでも珍しいIEMですが、今回は3公演も登場したわけです。ここで、日程で確認しておきましょう。 ・11月21日:オーチャードホール 【本作ディスク1・2】・11月22日:オーチャードホール 【本作ディスク3・4】・11月24日:大阪オリックス劇場・11月25日:Zepp Nagoya ・11月28日:オーチャードホール・11月29日:オーチャードホール 【本作ディスク5・6】 このように当店では、“オーチャードホール公演”4公演すべてのオリジナルIEMマスターを入手。東京3日目「11月28日」だけは、やや難があるために『TOKYO 2016 3RD NIGHT: ORIGINAL IEM RECORDING』としましたが、その他の3公演は極上品。そのサウンドたるや、目も眩むような凄クリア世界。最終日の終盤のみ、IEM特有のノイズが少々入ってしまいますが、それ以外はIEMの常識とはかけ離れた美しさ。卓直結サウンドボードにも匹敵する激しいビビッド・サウンドの旨みが脳ミソを直撃するのです。今回の来日公演はオーディエンス録音も極上品のオンパレードでしたが、IEMの極彩色はまったくの異次元です。残響も反響もオーディエンス・ノイズも物理的に排除された埋没感ももの凄く、ギター弦のこする音、ヴォーカル・マイクが拾う息づかいまで耳元で鳴り、エフェクターの切り替えまでもが克明。YESの複雑なシンフォニック・アンサンブルが素因数分解されて脳ミソの流れ込み、それこそ自分自身がミックス卓になったような音楽体験に浸りきれるのです。だからと言って、本作が“オフィシャル代わり”かというと、それともまた違う。IEMは各メンバーによってミックスが大幅に異なっており、どのメンバーのIEMを傍受したかによってまるで表情を変える。本作の3公演はどれもIEMにしては驚異的にバランスが良いものの、その面白さもたっぷりと詰まっています。各ディスクが誰の傍受なのかまとめてみまますと…… ・1日目:左=全体モニター/右=ジェフリー・ダウンズ・2日目:左=全体モニター/右=全体モニター・最終日:左=ジョン・デイヴィソン/右=ジェフリー・ダウンズ ……と、このようになっています。2日目(ディスク3・4)こそ、両チャンネルが「全体モニター」ですが、初日・最終日は1つのショウが、違う音世界になって左右の耳から流れ込み、それが脳の中でグチャグチャに混ざり合う。しかも、その音世界の主がYESの複雑な組曲。パートによってキーボードがえらく遠かったり、逆にもの凄く近くなったり。それが各楽器、リアルタイムで起こる万華鏡サウンドは、まさに異次元感・宇宙感。純音楽でトリップさせるドラッグ・アルバムと言っても過言ではありません。しかも、それだけではないから本作は凄い。通常のIEMなら、そのまま音楽的に破綻してしまうところですが、本作はそうではない。そこまで目まぐるしく変化しながらも破綻には至らず、全体として“YESの美”をキープし続ける。サウンドボードともオーディエンスとも違う、偶然が生んだ音楽世界なのです。極彩色のトリップ感満点のIEMサウンドにして、“美しさ”も崩れない奇跡の逸品。“音楽表現”・“芸術作品”という意味では、各公演の頂点オーディエンス録音こそがお勧めですが、そうした表現芸術とは違った次元で偶然生み出された異次元に溢れた6枚組です。“音源異常事態”となった最新ツアーでも、異彩に輝く6枚組。 Bunkamura Orchard Hall, Tokyo, Japan 21st, 22nd & 29th November 2016 ULTIMATE SOUND(from Original Masters) Live at Bunkamura Orchard Hall, Tokyo, Japan 21st November 2016 Disc 1 (65:18) 1. Onward (Chris Squire tribute) 2. The Young Person's Guide to the Orchestra 3. Machine Messiah 4. White Car 5. Tempus Fugit 6. Steve Howe Introduction 7. I've Seen All Good People 8. Perpetual Change 9. And You and I 10. Heart of the Sunrise Disc 2 (75:37) 1. The Revealing Science of God 2. Leaves of Green 3. Ritual 4. Member Introduction 5. Roundabout 6. Starship Trooper Live at Bunkamura Orchard Hall, Tokyo, Japan 22nd November 2016 Disc 3 (65:51) 1. Onward (Chris Squire tribute) 2. The Young Person's Guide to the Orchestra 3. Machine Messiah 4. White Car 5. Tempus Fugit 6. Steve Howe Introduction 7. I've Seen All Good People 8. Perpetual Change 9. And You and I 10. Heart of the Sunrise Disc 4 (76:31) 1. The Revealing Science of God 2. Leaves of Green 3. Ritual 4. Member Introduction 5. Roundabout 6. Starship Trooper Live at Bunkamura Orchard Hall, Tokyo, Japan 29th November 2016 Disc 5 (66:47) 1. Onward (Chris Squire tribute) 2. The Young Person's Guide to the Orchestra 3. Machine Messiah 4. White Car 5. Tempus Fugit 6. Steve Howe Introduction 7. I've Seen All Good People 8. Perpetual Change 9. And You and I 10. Heart of the Sunrise Disc 6 (77:22) 1. The Revealing Science of God 2. Leaves of Green 3. Ritual 4. Member Introduction 5. Roundabout 6. Starship Trooper Steve Howe - guitar, vocals Alan White - drums Geoff Downes - keyboards, vocals Jon Davison - vocals, acoustic guitar, percussion Billy Sherwood - bass, vocals Jay Schellen - drums