THE WHOの代表作のひとつである『トミー』は、ロック・オペラの優れた作品としても知られている。そもそも「ロック・オペラ」なる造語自体が、ピート・タウンゼントの発案であると伝えられており、まさにTHE WHOは70年代に花開くロック・オペラの先駆者であった。そして『トミー』より難解かつ複雑な新たなロック・オペラの大作として上梓されたのが1973年に発表された『四重人格』であった。 『四重人格』に至るまでもTHE WHOは紆余曲折を経ている。1972年、新たなアルバムとして制作にとりかかった『ライフハウス』は完成を待たずしてお蔵入りとなり、その仕切り直しとなった『ロック・イズ・デッド』も未完成のままプロジェクトは棚上げとなってしまう。結局1972年はTHE WHOとしてのリリースはシングル2枚にとどまってしまった。多忙ながらも作品としての結実がなかった1972年を不完全燃焼で終えたTHE WHOは、翌1973年、再びニューアルバムの制作にとりかかることとなった。このように何度かの流産を経て完成したのが『四重人格』なのである。先に『四重人格』は難解かつ複雑なロック・オペラであると書いたが、実際に内容をすぐに把握することは困難で、リリースに際しては物語を記した分厚いライナー&写真集が付与されていた。そしてこの『四重人格』に伴うツアーが1974年に行なわれたのである。 『四重人格』に伴うツアーは1974年2月にフランスで、5月にイギリス、そして6月にアメリカと、断続的に3つのレグにわけて、半年の間にわずか13公演という小規模なものであった。さらにツアーにおいてはセットリストの変遷も特記事項である。アルバムを聴けばわかるのだが、このアルバムのサウンドはシンセサイザーを多用したきらびやかな色彩を帯びたものとなっている。それが意味するところは、4人バンドでステージで再現することが困難であるということである。そこで当初は事前にバッキング・トラックを録音しておいて、ステージではそのテープに合わせて演奏するという案が遡上に上がった。しかし技術的な事や、テープと演奏のタイミングが合わないなどの問題点が噴出し、ツアー当初は『四重人格』からの楽曲が多く演奏されていたが、ツアーが進むにつれその比重は低くなっていき、最終的には3曲程度しか演奏されなくなっていった。 本作は、この小規模な1974年ツアーにおいてハイライトともいうべき1974年5月18日、イギリスはチャールトンでのコンサートを収録している。なぜこのチャールトン公演がツアーのハイライトかといえば、THE WHOはSUMMER OF 1974という大規模イベントのヘッドライナーとしての出演だったのである。会場となったのは巨大なフットボール・スタジアム。バッド・カンパニーやハンブル・パイなど当時イケイケのバンドが勢揃いした中で、スタジアムを埋め尽くす大観衆を前にしての演奏である。本作は、このチャールトン公演を音源と映像の両方で楽しめるセットとなっている。 【CD】 THE WHOの1974年5月18日チャールトン公演は、さすがツアーのハイライトにして巨大スタジアムのイベント・ステージということで、様々な形で記録が残されている。音源にしても、BBCマスターやFMブロードキャスト・マスター、さらに映像付随の音源も含むと数種類のサウンドボード音源が存在することになる。しかしながら、いずれもサウンドボードではあるのだが音質的にいまひとつなもので、しかも完全収録ではないという最大の欠点がある。そして皮肉なことに、この日を収録した音源で最も音質的に優れているのがオーディエンス音源であり、また完全収録しているのもオーディエンス音源のみなのである。よって、本作は内容と音質の両方から判断し、オーディエンス音源で完全収録している。 【DVD】 この日は映像もプロショットで残されており、古くからコレクターの間では有名な定番映像であった。その昔「2nd House」という番組で放送されたものが、全ての既発タイトルの元ネタになっていたのだが、最近になり別ソースが2種類ほど発掘され、現在ではそれらを組み合わせたものが主流となっている。しかし、いずれのソースも不完全収録であり、それぞれのソースにしかない曲もあるものの、基本的には全て同じショットである。また音声は基本的にはモノラル収録なのだが、FMラジオで放送されたステレオ音源というものがあり、さらに部分的にはステレオ音声の映像が存在したりと、なかなか複雑な状況であった。 本作は、THE WHOコレクター秘蔵のBBCバージョンの高画質ソースがあり、それとは別にマスタークオリティで数曲あり、それらを組み合わせて最長収録になるよう試みている。残念ながら完全収録というものはいまだ発掘されておらず、むしろ現存しないという話もある。また元がPALソースということもあってノイズが散見され画質が微妙なものが多かったのだが、本作ではそれら画質も従来にないハイ・クオリティとなっている。内容的にも、ピートのインタビューやバックステージの様子なども含め、最良かつ最長となっている。 そして映像の音声部分であるが、こちらはビデオ・ソースとFM放送されたステレオ音源の2種類の音声が切り替え出来るようになっている。 【CHARLTON 1974】 本作は、アルバム『四重人格』に伴う短期ツアーにおけるハイライト、1974年5月18日巨大スタジアムにおけるイベント・ステージ、チャールトン公演をオーディエンス音源で完全収録、さらにプロショット映像でサウンドボード音源2種類が切り替え可能な映像とのセットである。定番音源、定番映像だからこそ、パーフェクトな形で残しておきたい、その役割を果たすとしたら本作になるのではないか。 AUDIENCE RECORDING AUDIO DISC DISC ONE 01. Announcement 02. tuning 03. Can't Explain 04. Summertime Blues 05. Young Man Blues 06. Baba O'Riley 07. Behind Blue Eyes 08. Substitute 09. I'm A Boy 10. Tattoo 11. Boris The Spider 12. Drowned 13. Bell Boy 14. Doctor Jimmy 15. Won't Get Fooled Again 16. Pinball Wizard DISC TWO 01. See Me, Feel Me 02. 5:15 03. Magic Bus 04. My Generation 05. Naked Eye 06. Let's See Action 07. My Generation Blues PRO-SHOT FILM DISC DVD DISC AUDIO 1 ORIGINAL SBD VIDEO RECORDING AUDIO 2 BROADCAST STEREO SBD RECORDING 01. Opening 02. Introduction 03. Young Man Blues 04. Baba O'Riley 05. Behind Blue Eyes 06. Substitute 07. I'm A Boy 08. Tattoo 09. Drowned 10. Bell Boy 11. See Me, Feel Me 12. Magic Bus 13. My Generation 14. Naked Eye 15. Let's See Action 16. My Generation Blues