ストーンズ1973年のウインター・ツアーと言えば中止となってしまった日本公演や流出サウンドボードの「HAPPY BIRTHDAY NICKY」のオーストラリアと言った印象が強かったのですが、ツアーの幕開けはアメリカでしかもLAフォーラムだったという事実は見過ごされがち。オーストラリアへ向かう前に何故LAでライブを行ったのかと言えば、前年12月にミック当時の妻だったビアンカの故郷ニカラグアのマナグアで街の90%が崩壊するほどの大地震が起きたことから、急遽ニカラグアへのチャリティー・コンサートとして行われたのでした。また同コンサートはウインター・ツアーの様子を最初に伝えてくれたアイテムを生み出したという別の側面もあります。それが名レーベルTMOQ(Trade Mark Of Quality)がリリースした「WINTER TOUR 1973」。レーベル名物のスタンプ・カバーにてリリースされたビンテージ・アイテムですが、むしろウイリアム・スタウトの漫画が載ったスリックカバーの「ALL MEAT MUSIC」と言った方がより通りが良いかもしれません。当時レーベル運営が二手に分かれたままリリースが続いていたことから同じレコードで二つのリリースが存在するという状況を反映したアイテム。実を言うと1980年代の半ばに「HAPPY BIRTHDAY NICKY」が登場するまでは、ウインター・ツアーのアイテムと言えばこれしかなかったのです。今ではウインター・ツアーと言えば「HAPPY BIRTHDAY~」を始めとした流出サウンドボードの印象が圧倒的に強いのですが、LP時代のマニアからするとこのツアーは「ALL MEAT MUSIC」でしか窺い知ることが出来なかった。結果としてこの日のショーの面白いところは、半年前のアメリカ・ツアーとも、この後のツアー本編とも違うメニューのライブだったことでしょう。LAフォーラムは半年前にショーを行ったばかりですし、ストーンズ側としてもセットリストを変えて挑む心構えがあったように感じられると同時に、オーストラリア日程に向けてのテストケースも兼ねていたように思われます。前半の構成こそ半年前と変わらないものの、中盤に差し掛かり始めたところで70年代前半のステージにおいて唯一のライブ演奏となった「Route 66」が登場。そのストレートな演奏に続けて登場した「It’s All Over Now」は後にハワイでも演奏されましたが、この時のみのワン・オフなアレンジメントを試しているのが貴重。ハワイの時と違い、まるで「Rip This Joint」と「Roll Over Beethoven」70年バージョンを混ぜたようなアレンジがとても面白い。さらにはハイドパーク以来の「No Expectations」までも登場。そして「Dead Flowers」から「Live With Me」までの流れは1971年さよならUKツアーの名残りのよう。時期的にはウインター・ツアーの中に括られるショーですが、実際には単独の特別なステージだと呼んでもいいほどでした。TMOQは史上初のストーンズ・ブート「LIVE’R THAN YOU’LL EVER BE」生み出しただけのことはあり、彼らの最新ツアーに強いレーベルでした。もしウインター・ツアーがオーストラリアやハワイだけ(そして日本も!)で行われていたとしたら、同レーベルからのリリースは実現せず、もしかしたらストーンズ70年ライブ史における空白となってしまった可能性が高かった。しかし幸いなことにLAフォーラムでのコンサートが実現したおかげで、TMOQも録音に向かったという訳です。よく知られているように、このLPに収められたオーディエンス録音は驚くほどオンな音像である一方、ミック・テイラーのギターばかりが目立つバランスとなっています。それでいて手拍子や会話などはすぐ横にいる人物からしか聞こえない。そのことからもフロント・ロウでの録音であったことが容易に推測できるのですが、いかんせんテイラーやサポート・メンバー側に近い位置から録音したのでしょう。実際にテイラーだけでなくニッキー・ホプキンスやホーン隊の音もまた近い。しかし、この癖のある音像を差し引いても非常に良好な音質であることは事実であり、聞いている内にこのバランスにも慣れてきてしまうのです(笑)。しかし時代は変わって「HAPPY BIRTHDAY NICKY」やハワイ音源の時代となったことからビンテージ・アルバムのCD化はなかなか実現せず、ようやく登場した時はTMOQ盤からそのまま起こしたアイテムでした。それからさらに十年の歳月が過ぎたところでようやくVGPレーベルからテープを元にしたCD盤「ALL MEAT MUSIC」が登場します。それによってLP特有のスクラッチノイズが払拭された状態で聞けるようになったのは画期的でしたが、その反面音質がかなり変わっていたのも事実。マニア間や専門誌などでは共通して暗く抜けの悪い音になってしまったと指摘されており、むしろ以前出ていたLP落としのCDの方が原音に忠実でクリアーだったとされました。ところがLP落としの方はスクラッチノイズが多く、しかも同時にストーンズのLPアイテムからそのまま落としたアイテムが乱発された時期だったことが災いして評価されませんでした。90年代初頭はLPから起こす「アナログ起し」は安直なものだという風潮があり、そこへ盤の状態やカートリッジの再生環境を考慮せずにCD化したアイテムがそれに拍車をかけてしまったのです。少し個人的な話になりますが、私が「ALL MEAT MUSIC」を初めて聞いたのは柏木公園前にあったショップのカセット(ファンクラブのレビューをインレイにコピー)で、それが倍速ダビングで作られていたものだから、ピッチが上がって元の抜けのいい音質がさらに強調されていたものです(笑)。それだけに先のCD化の際には違和感を覚えました。そこで今回はLP本来の音質をCDに封じ込めるべく、ミント・コンディションのTMOQ盤から丁寧にトレース。今やビンテージ・アイテムとして高い人気を誇るTMOQ盤ですが、初期ブートということから盤質は元から粗い(タイトルや版の違いによってプレス工場やビニールの質も変わっていた)ことが少なからずあり、クリーンなトランスファーが難しい。もちろんスクラッチノイズも緻密に削除しており、この名盤を文字通りスッキリした音質で聞けるアイテムに仕上がりました。そして盤の最初に収録されていた録音アナウンスを始めとした演奏やMCと無関係な部分をカットすることで一枚のCDに収まり、さらに聞きやすくなっています。マニアが聞きたかったのはこの音だ!
Live at the Forum, Inglewood, CA. USA 18th January 1973 Special benefit concert for the Nicaraguan earthquake victims (79:54)
01. Intro 02. Brown Sugar 03. Bitch 04. Rocks Off 05. Gimme Shelter 06. Route 66 07. It's All Over Now 08. Happy 09. Tumbling Dice 10. No Expectations 11. Sweet Virginia 12. You Can't Always Get What You Want 13. Dead Flowers 14. Stray Cat Blues 15. Live With Me
16. All Down The Line 17. Rip This Joint 18. Jumping Jack Flash 19. Street Fighting Man





























