ビートルズ解散後、各メンバーの中で、最初にビルボード・チャートでナンバー1を獲得したのは、ジョージの「My Sweet Lord」であった。そして次がリンゴの「明日への願い」である。ジョンやポールよりも先にジョージが、そしてあろうことかリンゴが続くという予想外の展開で70年代は幕を開けた。偉大な二人の才能に抑圧されていた二人が自身のソロアルバムとシングルをいち早くリリースしたのは当然の流れかもしれないが、揃って順調な滑り出しでソロ活動を開始した点は注目に値する。それくらい元ビートルズの看板は有効に作用したということであろう。本作は、ポール、ジョン、ジョージに続いて、リンゴ・スターのソロ時代のプロモ映像を網羅したものとなっている。1970年から時系列に、別バージョン、別編集、そしてテレビ・スポットからテレビ・ショウでの演奏、そしてゲスト出演しているプロモまで、関連映像を網羅したものとなっている。 1970年はファースト・アルバム『センチメンタル・ジャーニー』よりタイトル曲のプロモが制作された。このアルバム自体がアメリカのスタンダード・ナンバーのカバー・アルバムという企画上、ディナー・ショウのようなステージで歌うリンゴのバックには星条旗とユニオンジャックが並んで掲げられている。オーケストラにダンサーに非常に豪華なステージを模したもので、バックのスクリーンにはジャケット写真にも使われたパプの写真が投影されている。何よりリンゴのルックスが、髪こそ短くなっているものの、ゲット・バック・セッションの頃のそれであることに気付く。 そして1971年にはリンゴ最大のヒット曲にして代表曲、ライヴでも必ず演奏される「明日への願い」である。本作には3バージョンに加え、それぞれを同時に見比べることが出来るマルチ・ビューでも収録している。バージョン1は森の中や不可思議な風景の中でリンゴが楽しそうに遊ぶというコンセプトで、様々なオーナメントや小道具が登場し、ちょうど同時期のジョージの趣味と被る気がする。バージョン2と3はは冬の雪山でピアノを叩きながら歌うリンゴを捉えたもの。バージョン2と3で微妙にショットが異なるのが特長である。 1972年は「Back Off Boogaloo」を2バージョンに加え、撮影時のアウトテイク映像を収録している。長いヒゲが伸びたリンゴがフランケンシュタインと庭園を散歩するという演出となっている。骸骨がダンスを踊っているシーンや、わずかに挿入されるキングコングなど、オカルト的要素をユーモアたっぷりに描いている。 1973年は、これもまたライヴでは欠かせない数少ないリンゴのヒット曲のひとつ「想い出のフォトグラフ」のプロモである。この辺になると完全にビートルズ時代の面影はなくなり、完全にソロ時代のリンゴとなっている。広い庭で林檎が様々な動物と出会う内容である。途中、何かのスタジアムの聴衆や、ジギー時代のデヴィッド・ボウイなど、意味不明な映像が挿入される。1974年はジョンからプレゼントしてもらった「Only You」である。アルバム『Goodnight Vienna』のジャケットと同じ衣装のリンゴや、やはりジャケットにもあるUFOが飛んでいるシーンなどで構成されている。 1976年にはアルバム『リンゴズ・ロートグラヴィア』がリリースされる。華々しいスタートをきったリンゴのソロ活動も、この辺りからセールス的に苦戦を強いられるようになる。90年代以降はライヴに軸足を移行したのもそのためであろう。このアルバムでは第一弾シングル「ロックは恋の特効薬」のプロモは制作されず、「ヘイ・ベイビー」と「ユー・ドント・ノウ・ミー・アット・オール」がそれぞれ2バージョンと、「アイ・スティル・ラヴ・ユー」を本作では収録している。「ユー・ドント・ノウ・ミー・アット・オール」では驚きのスキンヘッドを披露している。 1977年は『ウィングズ~リンゴ IV』が発表される。その1曲目の「ダウンイング・イン・ザ・シィーオブ・ラブ」ははアップテンポの名曲である。1980年代に入るとリンゴはアルコール依存症に悩まされることになるが、このプロモ映像では美味しそうにウイスキーを飲むシーンがあり、ファンとしてはそのことを想起してしまう。1978年はアルバム『バッド・ボーイ』に伴うプロモが作られた。「トゥナイト」は2バージョン収録している。特に今回アップグレードで収録されている映像は鮮やかな色彩で昨今作られたかのようなクオリティである。「Your’re Sixteen」は1973年『リンゴ』に収録されていた曲であるが、このプロモ映像が制作された年代ということで、本作ではこの位置に収録されている。バージョン2はアニメーションを駆使した凝った作りとなっている。 さて、ここから80年代に入る。1981年に『バラの香りを』がリリースされる。「Wrack My Brain」はジョージ提供の楽曲である。本作では2バージョンの異なるプロモが収録されている。テーマパークなどにあるホラーハウスのようなアトラクションをリンゴが散策するという、これもまたジョージの趣味であろうと思われるプロモとなっている。そして1982年には同アルバムからさらに「Private Property」のプロモが制作された。こちらはポール提供の楽曲である。ポールはベースでも参加しており、なるほどベースの音が大きくミックスされている。このアルバムもセールス的に振るわず、1983年に発表された『Old Wave』は結局、アメリカとイギリスではリリースすらされなかった。 正直言ってリンゴは80年代以降は低迷期に入る。ニューアルバムは長らく途絶え、経済的にも困窮し、自身が持つビートルズの権利を売却しようとしてポールから止められている。しかし、そのような不遇な時代を経て、リンゴはオールスター・バンドを結成することにより音楽シーンに復活することとなった。オールスター・バンドは、その名の通り往年のスターがリンゴをリーダーとして一同に会しツアーを回るというもので、リンゴ以外のメンバーは流動的である(松村雄策氏は“トラベリング・ウィルベリーズの二軍”と呼んだが・・・)。コンサートではリンゴだけでなく、様々なアーティストの代表曲が本人の歌唱で楽しめるとあって、現在まで続くリンゴのライフ・ワークともなっている。そしてリンゴ&オールスター・バンドでは、ライヴ・アルバムが数多くリリースされている。1990年制作のプロモ「明日への願い」も、そのライヴ・ステージの演奏から作られている。本作ではエディットの異なる2バージョンを収録している。 レコード会社はセールス的に難色を示していたが、このオールスター・バンドの成功を受けてリンゴに再びニュー・アルバムを作ることが出来るようになった。そうして9年ぶりのニューアルバムとなったのが1992年の『タイム・テイクス・タイム』である。そして同アルバムから「ウェイト・オブ・ザ・ワールド」のプロモを2バージョン収録している。ちょうど映画「ブロードストリート」の「ボールルーム・ダンシング」のシーンような書き割りをバックに、リンゴが実に楽しそうに歌っているのが印象的である。同アルバムからはもう一曲「Don’t Go Where The Road Don’t Go」のプロモが収録されている。こちらはリンゴ・バンドのツアーの合間に撮影されたもので、リハーサル映像なども使用されている。 1990年代のリンゴはもう1枚、『ヴァーティカル・マン?リンゴズ・リターン』というアルバムを発表している。9年ぶりの前作からさらに7年ぶりの新作であった。同アルバムからのプロモとして「La De Da」が制作された。本作はそのプロモ映像を3バージョン収録している。それまではリンゴも若かったが、さすがにこのプロモ以降は、現在に近い容姿となっている。そしてこの間もリンゴはオールスター・バンドを率いてツアーをまわっていたのである。2001年に制作されたプロモとしては、まさにリンゴの最終兵器である2曲、「Yellow Submarine」と「With A Little Help From My Friends」を、オールスター・バンドからのステージ映像で構成されたものを収録している。年齢を経てもなお美しいバーバラの姿も見ることができる。 80年代と90年代にリンゴはわずか4枚のアルバムしか残していない。しかしその寡作度とは打って変わって、2000年代に入ると次々にニューアルバムをリリースする。それもオールスター・バンドのツアーと平行して行なっているのである。まず2003年に『リンゴ・ラマ』というアルバムを発表。このアルバムからは「Never Without You」のプロモが制作された。ビートルズ時代を振り返る内容のプロモで、1964年エド・サリバン・ショウなどの映像が散りばめられ、白黒映像を効果的に使い、オールド・スタイルのヴォーカル・マイクなど、センチメンタルな作りとなっている。2005年に発表したのが『チューズ・ラヴ』である。同アルバムから「Fading In Fading Out」のプロモが制作された。本作には2バージョン収録している。 2007年には34年ぶりにEMIからとなった『想い出のリヴァプール』がリリースされる。そのタイトル曲はシングル・カットされ、本作に収録のプロモ映像も制作された。タイトル通り郷愁を誘うメロディに加え、少年時代のリンゴと思しき男の子が登場する。さらにビートルズ時代の映像がふんだんに盛り込まれ、リンゴのルーツたるリバプールへの想いが伝わってくるステキな曲に仕上がっている。 2012年には、そのものズバリ『Ringo 2012』というアルバムがリリースされる。このアルバムからのプロモ映像は2曲制作されている。ひとつが「Wings」であるが、ポールのバンドとは関係がない。人形劇を模したプロモは、アニメと実写と融合させた手の込んだもので、リンゴの人柄をよく表している心温まるものである。もう1曲はバディ・ホリーのカバー曲「Think It Over」である。意図的にオールディーズの雰囲気を意識した50年代ふうの衣装に身を包んだリンゴが、ドラムとヴォーカルのひとり二役で登場している。 かつてリンゴは、ビートルズの他のメンバーから届いたプライベートなハガキを一冊の本にまとめ2004年に「POSTCARDS FROM THE BOYS」として出版している。それを意識したのかどうか現在のところリンゴの最新アルバムは2015年リリースの『Postcards From Paradise』である。このタイトル曲のプロモが本作に収録されているものである。ミドル・テンポでエフェクトをかけたリンゴのヴォーカルで、かつての自分たちの曲のタイトル「P.S. I Love You」などを歌詞に織り込み、まるで呪文を聞いているかのように繰り返される。なかなかクセになる曲である。 【ORIGINAL TV SPOT】 当時、アルバム・リリース時には、テレビでもCMでバンバン宣伝がなされている。まずアルバム『グッドナイト・ウィーン』のアルバムCMが2種収録されている。ナレーションを務めているのはなんとジョン・レノンである。その他、『ヴァーティカル・マン』と『チューズ・ラヴ』のTVスポットを収録している。 【TV SHOWS】 ここでは珍しいリンゴが出演したテレビ・ショウを3番組収録している。まず最初は1971年にシラブラックと共演した時の映像。雪だるまを挟んで二人で歌うというもの。続いて1975年のテレビ・ショウでSMOTHERS BROTHERSと共に「No No Song」を歌っている。マイミングであるが、いつも不機嫌そうなリンゴが、このように楽しそうに歌っている姿も珍しい。最後が1981年のパーキンソン・ショウである。リンゴも若いがマイケル・パーキンソンも若い。リンゴはドラムスを叩いている。曲はゲットバックセッションでも演奏された「Singing The Blues」である。 【RELATED VIDEOS】 本作の最後はリンゴがソロ時代に、他のアーティストに参加した曲のプロモを収録している。もちろんリンゴ自身も出演しているの。例えばマークボランの「Children Of The Revolution」などはエルトン・ジョンも出演しており、リンゴの交流の広さが伺える。そのリンゴといえば、おかしな石器人のような長髪の時代である。ニュー・バーバリアンズの「VBuried Alive」にはロン・ウッドらのバックでドラムを叩いている。1985年の「Sun City」と1989年のBack Owensの「Act Naturally」には、メイキング時の映像も収録されている。 【COMPLETE PROMO CLIP COLLECTION】 リンゴのソロ活動というのは、華やかなスタートで開幕した70年代を頂点とし、セールス的に伸び悩み長い低迷期を経て、またアル中治療にも時間をとられ、キャリアの長さに比して作品はそう多くはない。この20年くらいはアルバム制作よりもオールスターバンドでの活動に力を入れている。しかしミュージシャンとしてのリンゴを語る上でスタジオ作品が基本にあることは言うまでもない。本作ではビートルズ解散後のリンゴのプロモ映像、そしてテレビ出演での演奏、さらにテレビ・スポット映像など、プロモーションに関する映像を網羅したものとなっている。 DVD DISC ONE 1970 01. Sentimental Journey (original audio mix) 1971 02. It Don't Come Easy - Version #1 03. It Don't Come Easy - Version #2 04. It Don't Come Easy - Version #3 05. It Don't Come Easy - Multi View 1972 06. Back Off Boogaloo - Version #1 07. Back Off Boogaloo - Version #2 08. Back Off Boogaloo – Outtake 1973 09. Photograph 1974 10. Only You 1976 11. Hey Baby #1 (original audio mix) 12. Hey Baby #2 (alternate audio mix) 13. You Don't Know Me At All #1 (variation A) 14. You Don't Know Me At All #2 (variation B) 15. I'll Still Love You 1977 16. Drowing in the Sea of Love 1978 17. Tonight #1 (original 16mm print) 18. Tonight #2 (upgrade) 19. You're Sixteen #1 (edited 1973 audio mix) 20. You're Sixteen #2 (1978 audio track) 1981 21. Stop and Smell The Roses 22. Wrack My Brain (Variation A) 23. Wrack My Brain (Variation B) 1982 24. Private Property 1990 25. It Don't Come Easy (live) #1 (Long Version) 26. It Don't Come Easy (live) #2 (Short Version) 1992 27. Weight of The World #1 (Long Version) 28. Weight of The World #2 (Short Version) 29. Don't Go Where The Road Don't Go 1998 30. La De Da #1 31. La De Da #2 (W/O Noose version) 32. La De Da #3 (Short Version) DVD DISC TWO 2001 01. Yellow Submarine (live) 02. With A Little Help from my Friends (Live) 2003 03. Never Without You 2005 04. Fading in Fading Out #1 (Variation A) 05. Fading in Fading Out #2 (Variation B) 2007 06. Liverpool 8 2012 07. Wings 08. Think It Over 2015 09. Postacards from Paradise ORIGINAL TV SPOT 10. Goodnight Vienna #1 11. Goodnight Vienna #2 12. Vertical Man 13. Choose Love TV SHOWS 14. The Snowman Song (with Cilla Black 1971) 15. The No No Song (with Smothers Brothers 1975) 16. Singing The Blues (Parkinson Show, UK 1981) RELATED VIDEOS Marc Bolan & T. Rex 1973 17. Children of the Revolution Ron Wood & The New Barbarians 1979 18. Buried Alive Artists United Against Apartheid 1985 19. Sun City 20. Sun City Making Gentlemen Without Weapons 1989 21. Spirit Of The Forest Buck Owens 1989 22. Act Naturally 23. Act Naturally Behind the Scenes Jan Hammer 1989 24. Too Much to Lose Wilburys Band John Lennon Tribute 1990 25. I Call Your Name Nils Lofgren 1991 26. Valentine Liam Lynch 2003 27. Try Me Hurricane Relief 2005 28. Tears in Heaven Version #1 29. Tears in Heaven Version #2 Peter Kay's All Star 2009 30. Children in Need Medley All Stars for United Nations 2016 31. Now The Time Has Come